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共創事例
大学のワクチン候補を製薬大手が非営利の約束で引き受け、30億回分超を世界に供給する
オックスフォード大学(University of Oxford)(大学・研究機関) × アストラゼネカ(AstraZeneca)(大手企業) × Vaccitech(現 Barinthus Biotherapeutics plc)(スタートアップ)
英国 オックスフォード スケール 枠組み 英国政府ワクチンタスクフォース(研究資金と購入契約で支援) 情報確認日 2026年10月12日
2020年4月、第1相試験に入ったばかりのオックスフォード大学のワクチン候補「ChAdOx1 nCoV-19」を、アストラゼネカが開発・製造・世界供給ごと引き受けています[1] [2] 。両者はパンデミック中は利益を取らない価格で供給することで合意し、大学と大学発スタートアップのVaccitechは、その間ロイヤリティを受け取らない条件になっています[1] [3] 。英国で2020年12月に承認され[9] 、累計30億回分超が供給されたのち、2024年にアストラゼネカは販売を終えています[26] 。大学の技術と製薬大手の製造・規制対応・供給網が結び付き、終わりまで追える事例です。
目次
共創の構造 背景と各組織の狙い 提供資源と役割 共同活動 成果物と成果 組み合わせの意味 他社への応用 出典 関連事例
1 共創の構造図解:共創プロジェクトの形
大学のワクチン候補を製薬大手が非営利の約束で引き受け、30億回分超を世界に供給する:共創の構造(オックスフォード大学、アストラゼネカ、Vaccitech) プロジェクト全体の段階 探索 PoC 共同開発 事業化 スケール Before| 起点 During| 共創 After| 成果 A オックスフォード大学 1 ニーズ・シーズ 第1相試験中のワクチン候補を、大規模製造と世 界供給ができる相手に託したい。非営利が条件 2 提供リソース ChAdOx1ワクチン候補、臨床試験の体制と第3相 データ、世界独占ライセンス、英政府の研究資金 A オックスフォード大学の成果 5 獲得成果 確認できた成果 ロイヤリティ収入(2021/22年度 1.4億ポンド、2023/24年度に最終 2,460万ポンド)。研究提携は継続 今後の目標・期待 ロイヤリティの医学研究への再投資 (パンデミック科学の研究拠点) B アストラゼネカ 1 ニーズ・シーズ 緊急性の高いワクチンを、大学の候補を引き 受けて世界に供給したい。英政府の後押し 2 提供リソース 製造・供給網、各国規制対応、米国での大規模 試験、非営利価格の引き受け、サブライセンス B アストラゼネカの成果 5 獲得成果 確認できた成果 30億回分超を供給、2021年収益 39.8億ドル。2024年に販売終了 今後の目標・期待 なし(2024年に販売終了) C Vaccitech 1 ニーズ・シーズ 自社プラットフォームの検証と、共同発明を一 本化して製薬パートナーにライセンスすること 2 提供リソース ChAdOx1プラットフォームの権利。共同特許を OUIに譲渡し、単一の独占ライセンスを可能に C Vaccitechの成果 5 獲得成果 確認できた成果 一時金240万ドルとロイヤリティ(2022年4,370 万ドル、2024年1,500万ドル)。2021年に上場 今後の目標・期待 なし(今後の支払いは見込まず) 3 共同活動 大学が臨床試験、製薬大手が 製造・供給・規制対応を担い、 2020年4月の提携から8か月 で承認。2024年に販売終了 4 成果物 ワクチンVaxzevria(英国承認 2020年12月)、30億回分超の供 給、Pandemic Sciences Centre
Before起点 A オックスフォード大学
① ニーズ・シーズ 第1相試験中のワクチン候補を、大規模製造と世界供給ができる相手に託したい。非営利が条件
② 提供リソース ChAdOx1ワクチン候補、臨床試験の体制と第3相データ、世界独占ライセンス、英政府の研究資金
B アストラゼネカ
① ニーズ・シーズ 緊急性の高いワクチンを、大学の候補を引き受けて世界に供給したい。英政府の後押し
② 提供リソース 製造・供給網、各国規制対応、米国での大規模試験、非営利価格の引き受け、サブライセンス
C Vaccitech
① ニーズ・シーズ 自社プラットフォームの検証と、共同発明を一本化して製薬パートナーにライセンスすること
② 提供リソース ChAdOx1プラットフォームの権利。共同特許をOUIに譲渡し、単一の独占ライセンスを可能に
During共創 ③ 共同活動 大学が臨床試験、製薬大手が製造・供給・規制対応を担い、2020年4月の提携から8か月で承認。2024年に販売終了
④ 成果物 ワクチンVaxzevria(英国承認2020年12月)、30億回分超の供給、Pandemic Sciences Centre
After成果 A オックスフォード大学の成果
⑤ 獲得成果 確認できた成果 ロイヤリティ収入(2021/22年度1.4億ポンド、2023/24年度に最終2,460万ポンド)。研究提携は継続 今後の目標・期待 ロイヤリティの医学研究への再投資(パンデミック科学の研究拠点)
B アストラゼネカの成果
⑤ 獲得成果 確認できた成果 30億回分超を供給、2021年収益39.8億ドル。2024年に販売終了 今後の目標・期待 なし(2024年に販売終了)
C Vaccitechの成果
⑤ 獲得成果 確認できた成果 一時金240万ドルとロイヤリティ(2022年4,370万ドル、2024年1,500万ドル)。2021年に上場 今後の目標・期待 なし(今後の支払いは見込まず)
プロジェクト全体の段階
探索 PoC 共同開発 事業化 スケール
①ニーズ・シーズ ②提供リソース ③共同活動 ④成果物 ⑤獲得成果。図の内容は本文と同じ出典に基づきます。
段階:スケール 2020年12月の英国承認
[9] ののち、2021年11月までに20億回分を170か国以上に供給し
[17] 、累計30億回分超に達しています
[26] 。2022年は初期契約の終了で収益が急減し
[21] 、2024年3月にアストラゼネカがEUの承認取り下げを申請、5月7日に発効しています
[24] 。ワクチンは製造も供給も終わっており
[26] 、ロイヤリティは大学が2023/24年度に「最終」の2,460万ポンド
[28] 、Barinthus(旧Vaccitech)が2024年10月に1,500万ドルの通知を受け、今後の支払いは見込んでいません
[29] 。この共創は世界規模の供給まで到達したうえで役割を終えたとみられますが、大学とアストラゼネカの研究提携自体は続いています
[30] 。
2 背景と各組織の狙いジェンナー研究所は、チンパンジー由来のアデノウイルスを改変したChAdOx1プラットフォームをインフルエンザ、ジカ熱、MERSのワクチン候補に用いてきており、MERSで1回接種で強い免疫応答が得られていたことが、新型コロナで同じ基盤を選んだ理由です[36] 。ChAdOx1の権利は大学と、2016年に同研究所から生まれたVaccitechが共同で持っていました[1] [29] 。
2020年初頭に設計を始めた候補は[34] 、4月23日に第1相試験に入りましたが[4] 、大学には大規模製造と世界供給、各国の規制対応を担う力がありませんでした。大学は非営利条項を受け入れる相手としか組まない方針で、当初は非独占・無償のライセンスも検討していたと報じられています[32] [34] 。英国政府はワクチンタスクフォースを設けたばかりで[1] 、大学が意中としていた米メルクとの交渉に懸念を示し、アストラゼネカとの合意を求めたとの指摘もあります[33] 。
アストラゼネカは「大学との長年の関係」と「ワクチンの必要の急迫」を挙げ[2] 、パンデミック中は利益を取らず、低・中所得国には恒久的に非営利で供給する約束を引き受けています[1] [7] 。
3 提供資源と役割
A オックスフォード大学(University of Oxford) 大学・研究機関・英国オックスフォード ・ 公式サイト
英国の大学。ワクチン候補はジェンナー研究所(サラ・ギルバート教授、エイドリアン・ヒル教授)が開発し、臨床試験はオックスフォード・ワクチン・グループ(アンドリュー・ポラード教授)が主導した[4] 。知財のライセンスは技術移転会社のOxford University Innovation(OUI)が担う[29] 。
役割 ワクチン候補の開発と臨床試験の主体、技術のライセンス元
① ニーズ・シーズ ジェンナー研究所は2020年初頭にChAdOx1 nCoV-19の設計を始め[34] 、4月23日に最初の被験者への接種を終えていました[4] 。大学だけでは大規模製造、各国の規制対応、世界への供給ができず、製薬パートナーが必要でした。大学は非営利条項を受け入れる相手としか組まない方針で、ソリオCEOがその考えを共有したと説明しています[34] 。一方、当初は非独占・無償のライセンスを考えていたが、ゲイツ財団の助言を受けて大手1社との提携に転じたと報じられています[32] 。
② 提供リソース ChAdOx1プラットフォームを用いたワクチン候補と、ジェンナー研究所・オックスフォード・ワクチン・グループの臨床試験体制[4] 。英国・ブラジル・南アフリカの第3相試験を主導し、有効性解析1万1,636人の結果をLancetに公表[8] 。OUIを通じてアストラゼネカに世界独占ライセンスを供与[29] 。英国政府からワクチン研究に6,550万ポンドの資金を受けていた[5] 。
③ 共同活動での担当 ワクチンの設計と英国・ブラジル・南アフリカの臨床試験を主導し、アストラゼネカの製造拠点への技術移転に協力した[8] [36] 。
⑤ 確認できた成果 2021/22年度にワクチン関連で1億4,310万ポンドの収入。技術使用料として第三者に6,700万ポンドを支払い、純額約7,600万ポンドは主に研究資金に充てる[20] 2023/24年度に先進国市場での販売に伴う「最終」のロイヤリティ2,460万ポンド[28] アストラゼネカが700万ドルを拠出するPandemic Sciences Centreを2021年5月に発表[15] 。同社との研究提携は継続している[30]
⑤ 今後の目標・期待 ロイヤリティは医学研究に再投資する(アストラゼネカと設ける新しいパンデミック対策・ワクチン研究センターを含む)[1]
B アストラゼネカ(AstraZeneca) 大手企業・英国ケンブリッジ ・ 公式サイト
英国ケンブリッジに本社を置く製薬大手。2021年の総収益は374億1,700万ドル[18] 。
役割 開発・製造・世界供給と規制対応の担い手
① ニーズ・シーズ 「ウイルスを打ち負かすワクチンの必要は急を要する」(ソリオCEO、編集部訳)として、大学の候補の世界展開を引き受けました[2] 。同社はオックスフォードと長年の関係があり[2] 、英国政府は2週間前にワクチンタスクフォースを設けたばかりで、ビジネス相は提携を「ワクチンの製造を急速に進めうる重要な一歩」(編集部訳)と評価しています[1] 。大学が当初意中としていた米メルクとの交渉に英政府が懸念を示し、アストラゼネカとの合意を求めたとの指摘もあります[33] 。
② 提供リソース 開発・製造・世界供給の責任を引き受け[2] 、2021年に最大30億回分の製造能力を目標に供給網を築いた[10] 。米国・ペルー・チリの第3相試験(3万2,449人)を主導し[11] 、各国の規制当局への申請を担当[8] [34] 。パンデミック中は製造・供給コストのみを回収する価格で供給し[1] [6] 、Serum Institute of Indiaへのサブライセンスで低・中所得国向けに10億回分を確保[6] 。
③ 共同活動での担当 製造拠点への技術移転と供給網の構築、米国第3相試験、各国の承認申請、各国政府・CEPI・Gaviとの供給契約を担当した[6] [11] [17] [36] 。
⑤ 確認できた成果 2021年11月までに20億回分を170か国以上に供給し、約3分の2が低・低中所得国向け[17] 。2022年2月時点で26億回分超を180か国以上に[18] 。累計30億回分超[26] Vaxzevriaの収益は2021年39億8,100万ドル、2022年18億7,500万ドル(契約終了で急減)[18] [21] 。2021年11月に新規受注分から「ささやかな利益」への移行を表明[16] 2024年に販売を終了。同社は「独立の推計で初年度に650万人超の命を救った」と述べている[26]
⑤ 今後の目標・期待 記載なし
C Vaccitech(現 Barinthus Biotherapeutics plc) スタートアップ・英国オックスフォード ・ 公式サイト
2016年5月にジェンナー研究所から生まれたスタートアップ。科学的創業者はエイドリアン・ヒル教授とサラ・ギルバート教授[29] 。2021年4月にNasdaqに上場し1億1,050万ドルを調達[35] 。2023年11月にBarinthus Biotherapeuticsに社名変更[23] 。
役割 ChAdOx1プラットフォームの共同権利者・ワクチンの共同発明者
① ニーズ・シーズ 提携発表時のエンライトCEOは、この候補が「当社のChAdOxプラットフォームの重要な検証になる」(編集部訳)と述べています[3] 。大学との共同発明を製薬パートナーに単一の独占ライセンスとして供与するため、自社の権利を整理する必要がありました[29] 。
② 提供リソース 2016年にOUIからライセンスを受けていたChAdOx1・ChAdOx2ベクターの権利[29] 。2020年4月の契約でSARS-CoV-2分野を対象から外し、共同出願の特許をOUIに譲渡して、アストラゼネカへの単一ライセンスを可能にした[29] 。
③ 共同活動での担当 ワクチンの共同発明者として権利をOUIに集約し、アストラゼネカとの契約の当事者にはならずに、OUIが受け取る収入の分配を受ける[29] 。
⑤ 確認できた成果 2020年7月にアストラゼネカの一時金の分配として240万ドルを受領[29] OUIが受け取る収入の約24%(正味売上高の約1.4%相当)を受け取る権利。ロイヤリティは2022年から発生し、2022年の収益4,370万ドル、2023年80万ドル、2024年1,500万ドル。今後の支払いは見込んでいない[22] [29] 2021年4月30日にNasdaq上場(調達額1億1,050万ドル)[35]
⑤ 今後の目標・期待 記載なし
4 共同活動③ 2020年4月23日にジェンナー研究所とオックスフォード・ワクチン・グループがChAdOx1 nCoV-19の最初の接種を行い[4] 、1週間後の4月30日に大学とアストラゼネカが開発・大規模製造・供給の提携を発表しています。発表には、パンデミック中は両者とも製造・供給コストのみを回収する非営利で運営すること、大学とVaccitechはその間ロイヤリティを受け取らないこと、後のロイヤリティは医学研究に再投資すること、英国が早期にアクセスを得ることが盛り込まれました[1] [3] 。英国政府は5月17日に6,550万ポンドの研究資金と1億回分の供給合意を発表し[5] 、6月4日にはアストラゼネカがCEPI・Gaviと3億回分、Serum Institute of Indiaと低・中所得国向け10億回分の契約を結んでいます[6] 。Vaccitechは7月に一時金の分配240万ドルを受け取りました[29] 。
臨床試験は、英国・ブラジル・南アフリカを大学が、米国・ペルー・チリ(3万2,449人)をアストラゼネカが主導しました[8] [11] 。12月8日にLancetで第3相の査読済み結果(有効性70.4%)が公表され[8] 、英国のMHRAは12月30日に承認[9] 、2021年1月4日に最初の接種が行われました[34] 。
一方、2021年春に血小板減少を伴う血栓の報告が相次ぎ、EMAは4月7日に「非常にまれな副反応」と結論づけ[12] 、英国では30歳未満、次いで40歳未満に代替ワクチンを勧める助言が出ています[13] 。投与量の誤りや、EUへの供給量をめぐる紛争も生じました[33] 。
それでも2021年11月には20億回分を170か国以上に届け、90か国以上で承認を得ました[17] 。同月、アストラゼネカは新規受注分から「ささやかな利益」へ移行すると表明しています[16] 。2022年は契約終了で収益が急減し[21] 、2024年3月にEUの承認取り下げを申請、5月に販売終了が報じられました[24] [26] 。大学には2021/22年度に1億4,310万ポンド[20] 、2023/24年度に最終の2,460万ポンドの収入があり[28] 、Vaccitech(現Barinthus)は2024年10月に最後の1,500万ドルの通知を受けています[27] [29] 。
5 成果物と成果④⑤
成果物
ワクチン「ChAdOx1 nCoV-19(AZD1222、製品名Vaxzevria)」。英国で2020年12月30日に承認[9] 、EUで2021年1月29日に条件付き承認[25] 。2024年5月7日にEUの承認取り下げが発効[24] 第3相試験の査読済み結果(Lancet、2020年12月8日、有効性70.4%)[8] と米国第3相の結果(76%)[11] 供給実績:20億回分(2021年11月、170か国以上)[17] 、26億回分超(2022年2月、180か国以上)[18] 、累計30億回分超[26] 。インドではSerum Institute of IndiaがCOVISHIELDとして製造・供給[17] Pandemic Sciences Centre(2021年5月発表。アストラゼネカが700万ドルを拠出)[15] 供給本数は時点で異なります。「20億回分・170か国以上」(2021年11月)[17] 、「26億回分超・180か国以上」(2022年2月。サブライセンス先を含む合計と明記)[18] 、「30億回分超」(2024年の販売終了時)[26] はいずれもアストラゼネカの説明です。収益は同社のVaxzevria単体で、2021年39億8,100万ドル(請求ベース9億6,300万回分)[18] 、2022年18億7,500万ドルです[21] 。大学の収入はOUI経由の総額で、第三者(Vaccitechを含むとみられる)への支払い前の数字です[20] 。
未確認・留意点 アストラゼネカとOUIの契約の料率・一時金・マイルストーンの総額は非公開です。Vaccitech(Barinthus)の開示は契約の抜粋に基づき、同社は契約の当事者ではありません[29] 「パンデミック期間」は2021年7月1日以降にアストラゼネカが誠実に判断して終える定めで[29] 、同社は2021年11月に利益への移行を表明しましたが[16] 、期間の終了を正式に宣言した日付は確認できません 大学の財務諸表の原本は確認できず、収入の数字はTimes Higher Educationの報道(財務諸表を引用)に依拠しています[20] [28] 「650万人超の命を救った」はアストラゼネカが引用する「独立の推計」であり、本ページでは検証していません[26] 血栓(TTS)に関する英国の集団訴訟は継続中で、Leigh Day法律事務所は2026年4月時点で48人を代理しています。英国政府がアストラゼネカを補償する取り決めがあるとされます[31] [37] 英国でのVaxzevriaの承認取り下げの時期は確認できません。2026年10月時点で両者の新たな共同事業の発表は確認できず、「研究提携の継続」は大学のサイトの記述によります[30] 大学のVaccitechへの出資比率(直接・間接で約50%との報道)[32] は、本ページでは一次情報で確認できていません
6 組み合わせの意味編集部の考察 考察 この組み合わせの中心は、「候補と試験の体制はあるが、作って届ける力がない大学」と、「候補はないが、製造・規制・供給の力がある製薬大手」の補完にあったと考えられます。大学は英国・ブラジル・南アフリカの試験を、アストラゼネカは米国などの大規模試験を分担し[8] [11] 、8か月で承認に至っています[9] 。同社は20以上の製造拠点とサブライセンス先に技術を移し[36] 、170か国以上に供給しました[17] 。
もう一つの要点は、非営利の約束を契約に書き込んだことです。大学は非営利を条件に相手を選び[34] 、ロイヤリティはパンデミック期間中は発生しない設計でした[1] [29] 。この約束が低・中所得国への供給(約3分の2)[17] を後押しした一方、「期間の終わり」の判断権はアストラゼネカにあり[29] 、2021年11月には新規受注分から利益を取る方針に変わっています[16] 。約束の内容と、それを終える条件を誰が決めるかは別の問題だったとみられます。
第三に、大学発スタートアップの扱いです。Vaccitechは共同権利者でしたが契約の当事者にはならず、共同特許をOUIに譲渡してOUIの収入の約24%を受け取る形を選びました[29] 。知財の一本化が単一の独占契約を可能にし、スタートアップは上場[35] とロイヤリティ収入[22] [29] を得たと推察できます。
同時に、終わり方も見ておく必要があります。血栓の副反応で若年層への使用が制限され[12] [13] 、変異株対応ワクチンの普及で需要が減り[26] 、2024年に販売が終わりました。両者の研究提携は続いていますが[30] 、このワクチンの共創は4年で役割を終えています。
7 他社への応用編集部の考察 考察 この型は、大学や研究機関が実用段階に近い技術を持ち、製造・規制対応・流通を大企業に託す場合に応用できると考えられます。鍵になるのは、第一に、研究側が臨床試験やデータ取得のように自ら担える工程を明確にし、企業側が製造と規制申請を引き受ける分担です[8] [11] 。第二に、大学発スタートアップが共同権利者である場合、権利を技術移転機関に集約して企業と単一の契約を結ぶ設計です[29] 。第三に公的資金で、本事例では英国政府の研究資金と購入契約が初期の試験と製造を支えました[5] 。
一方、「非営利」のような社会的な約束を掲げる場合、その終了条件と判断権を契約で明確にし、公表しておくことが望ましいでしょう。本事例では判断権が企業側にあり[29] 、約束の変更は決算発表で知られる形になりました[16] 。また、副反応や供給紛争のように成果物が世に出た後の問題は企業側が矢面に立ち[12] [33] 、訴訟は販売終了後も続いています[31] 。研究側も評判とロイヤリティの両面で影響を受けるため、リスク分担と情報開示の方針を事前に共有しておく必要があると考えられます。本事例の規模と速度はパンデミックと公的資金に支えられたもので、平時にそのまま再現できるとは限りません。
成立に必要な条件
研究側が自ら担える工程(臨床試験・データ取得)と、企業側が担う工程(製造・規制申請・供給)を明確に分けること[8] [11] 大学発スタートアップが共同権利者である場合、権利を技術移転機関に集約し、企業と単一の契約を結ぶこと[29] 非営利などの社会的な約束を掲げる場合、その終了条件と判断権を契約で定め、公表すること(本事例では判断権は企業側)[29] 初期の試験と製造を支える公的資金・購入契約を確保すること[5] 成果物が世に出た後の副反応・供給・訴訟などのリスク分担と情報開示の方針を、あらかじめ共有すること[12] [31] [33]