← 事例一覧
共創事例
町工場が設計と試作を引き受け、発明段階の風力発電機を実証機まで形にする
株式会社浜野製作所(中小企業) × 株式会社チャレナジー(スタートアップ)
日本東京都墨田区共同開発枠組み Garage Sumida(浜野製作所のものづくり支援拠点)情報確認日 2026年10月5日
2014年、風力発電の発明で起業したばかりのチャレナジーには、機械設計の人材も加工の設備もありませんでした[5]。金属加工の浜野製作所は、開設したばかりのものづくり支援拠点「Garage Sumida」に同社を入居第1号として迎え、設計支援と部品の製造を担って試作機を形にしています[5][7][10]。町工場が受託加工から設計・開発の上流へ踏み出す取り組みと、スタートアップが原理を実機にする工程が結び付いた事例です。
1共創の構造図解:共創プロジェクトの形
Before起点
A浜野製作所
① ニーズ・シーズ受託加工から設計・開発の上流へ踏み出し、スタートアップ支援を新たな収益源にしたい
② 提供リソース設計支援、試作機の部品製造、風洞実験機の共同製作、入居拠点、町工場のネットワーク
Bチャレナジー
① ニーズ・シーズ発明段階の風力発電機を実機にしたい。機械設計の人材と加工のノウハウがない
② 提供リソース発明と特許、開発テーマ、NEDOなどの開発資金
During共創
③ 共同活動町工場が設計支援と部品製造を担い、発明段階の風力発電機を第2号試作機・風洞実験機・1kW実証機へ
④ 成果物第2号試作機、風洞実験機、1kW実証機(10kW機以降は協力工場の分業へ)
After成果
A浜野製作所の成果
⑤ 獲得成果確認できた成果最初の成功事例として支援実績に。設計開発から着手する業務が6割以上、連携450社超(全体)今後の目標・期待墨田発のスタートアップを世界へ。常時20〜30社の入居
Bチャレナジーの成果
⑤ 獲得成果確認できた成果試作機と風洞実験機が完成。1kW実証機が初の出資につながり、10kW機の実証と大型調達へ今後の目標・期待100kW機の販売(開発・実証中)。小型機は2023年に販売開始
プロジェクト全体の段階
探索PoC共同開発事業化スケール
①ニーズ・シーズ ②提供リソース ③共同活動 ④成果物 ⑤獲得成果。図の内容は本文と同じ出典に基づきます。
段階:共同開発 両社の共同活動は、第2号試作機と風洞実験機の製作(2015年)から1kW実証機(2016年)、2018年2月時点の部品製作まで確認できます
[5][6][10][22]。その後、チャレナジーは試作機の大型化にともない全国の協力工場の分業へ移行し
[5]、2018年5月に別の施設へ移っています
[24]。2024年以降のチャレナジーの発表に浜野製作所への言及はなく、共同開発としての役割は終えたとみられます。チャレナジー自体の事業は、マグナス式は大型機の開発・実証段階、小型機は2023年に販売を開始しています
[28][29][30]。
2背景と各組織の狙い
浜野製作所は墨田区の金属加工の町工場です。墨田区の工場数は1960〜70年代の約1万社から約4分の1に減り、町工場が大企業の生産工場に組み込まれる流れを変えたいという問題意識がありました[11][12][15]。2014年、区と都から計2,000万円の補助を受けて、ものづくり支援拠点Garage Sumidaを開設しました[3][12]。背景には、2012年にオリィ研究所の吉藤氏から相談を受けた経験があります[14]。
チャレナジーの清水氏は、2012年に自宅で風力発電機のプロトタイプを自作し、2013年に特許を取得していました[9][10]。2014年のテックプラングランプリで最優秀賞を受け、同年10月に会社を設立しましたが、1kW試作機は未完成で、機械設計の人材もいませんでした[5][38]。
清水氏は浜野製作所を「職人集団ですから、僕らが持っていない部分を補完してくれる師匠みたいなもの」と表現しています[10]。
3提供資源と役割
A株式会社浜野製作所 中小企業・東京都墨田区 ・ 公式サイト
1978年設立の金属加工・装置設計開発の町工場。資本金2,000万円、従業員60名(2024年8月)[16][20]。2014年にものづくり支援拠点「Garage Sumida」を開設し、スタートアップの設計・試作支援を行う[3][11]。
- 役割
- 創業期の設計・製造パートナー兼インキュベーター
- ① ニーズ・シーズ
- 墨田区の町工場は1960〜70年代の約1万社から約4分の1に減り[11][15]、下請け型の量産加工だけでなく、設計・開発・試作という上流工程に関わる力をつける必要があると考えていました[15]。企業サポートを「新たな収益源にするのが目的の一つ」とし[3]、「最終製品の設計支援」「コンセプトの具現化支援」を新規事業開拓の一環として進めており、チャレナジーへの支援もその一環でした[5]。
- ② 提供リソース
- 入居拠点としてGarage Sumida、のちに旧板金工場3階のオフィス[6][9]。機械設計の人材がいなかったチャレナジーへの設計支援と、第2号試作機の部品の調達・製造の大部分[5]。風洞実験機の共同製作[10]。職人の助言と即時の部品加工[6][8]。中小製造業ネットワークへの橋渡し[5]。
- ③ 共同活動での担当
- 第2号試作機の設計を支援し、部品の調達と製造の大部分を担当。風洞実験機を共同製作し、入居後も試作機への助言と部品製作を続けた[5][6][10]。
- ⑤ 確認できた成果
- チャレナジーを「最初の成功事例」として対外発信し[3]、2016年のリバネスとの資本提携、2018年の経済産業省「スタートアップファクトリー構築事業」採択で支援実績として明示[1][4]
- 設計開発から着手する業務が6割以上、連携スタートアップは450社超(2025年)[17]。インキュベーション入居30件、開発支援プロジェクト約400件[16]。ただし、これらは支援全体の数字で、チャレナジー単独の寄与は示されていない
- ⑤ 今後の目標・期待
- 「墨田からも世界にはばたいてほしい」[8]。20〜30社の常時入居(2016年時点)[2]
B株式会社チャレナジー スタートアップ・東京都墨田区 ・ 公式サイト
2014年10月設立。垂直軸型マグナス式風力発電機を開発するスタートアップ。2019年までに累計約6億円、2022年に約12億円を調達[23][26]。
- 役割
- 技術の発案者・開発主体
- ① ニーズ・シーズ
- シーズは垂直軸型マグナス式風力発電機の発明と特許です(2013年取得)[10]。設立当初は1kW試作機も未完成で[38]、機械設計の人材がおらず、原理を実機にする加工技術とノウハウが必要でした[2][5]。
- ② 提供リソース
- 技術アイデア・特許と開発テーマ[10]。NEDOなどの開発資金(第2号試作機の費用約500万円に活用)[5][7]。Garage Sumida入居第1号としての実績と発信[3][7]。
- ③ 共同活動での担当
- 原理・設計・制御を担い、浜野製作所と「二人三脚」で第2号試作機を設計・製作。実証と資金調達を進めた[5][7]。
- ⑤ 確認できた成果
- ⑤ 今後の目標・期待
- 「墨田区をものづくりのシリコンバレーにする」[9]
- 100kW機の販売開始(2027年または2029年。出典により異なる)[29][30]
4共同活動③
出会いは2014年3月の「テックプラングランプリ」(リバネス主催)です。最優秀賞を受けた清水敦史氏に、審査員だった浜野製作所の浜野慶一氏が「ものづくりベンチャーの支援施設を作っているから、一緒に夢を実現しないか」と声をかけました[5][8][9][10]。同年4月に開設されたGarage Sumidaに、10月に設立されたチャレナジーが入居第1号として入ります[6][7][21]。浜野氏は清水氏に対し「ものづくり的には大変だということはわかるので、うちが全力で手伝います」と述べたといいます[10]。
創業期の共同活動は、第2号試作機の設計と製作です。機械設計の人材がいないチャレナジーに対して浜野製作所が設計を支援し、部品の調達と製造の大部分を担いました。費用は約500万円で、NEDOの資金を活用しています[5]。2015年12月の風洞実験に使った実験機も、両社で共同製作しました[10]。清水氏は「設計段階から相談しているので話が早い。普通の工場に頼むと約1週間は要する部品加工も、その場ですぐつくってもらえ、1時間後に出てくるのがありがたかった」と述べています[8]。
2016年8月には沖縄県南城市で1kW機の実証が始まり[1][22]、2017年12月のGarage Sumidaリニューアル後も、チャレナジーは浜野製作所の旧板金工場3階にオフィスを置き、試作機への助言と部品の一部製作を受けていました[6][8]。
一方、第3号・第4号以降の試作機は大型化し、浜野製作所の町工場ネットワークでは対応できなくなりました。チャレナジーのエンジニアが全国から協力工場を探し、複数工場の分業に移行しています。長さ10m級の円筒部品では50社以上に打診しました[5]。2018年5月、チャレナジーは同じ墨田区内の施設「センターオブガレージ」に移りました[24]。
5成果物と成果④⑤
成果物
- 第2号試作機と風洞実験機(浜野製作所が設計支援・部品製造・共同製作)[5][10]
- 1kW実証機(沖縄県南城市、2016年8月〜)。2017年10月の台風21号で最大風速33m/sを記録[1][22][25]
- 10kW試験機(石垣市2018年、フィリピン・バタネス州2021年稼働、2025年撤去)[24][27][32]。浜野製作所の関与範囲は未確認
両社の共同の成果物(合弁会社、共同特許など)は確認できません。浜野製作所からチャレナジーへの出資も確認できず、2019年の資金調達の引受先一覧に浜野製作所はありません[26]。
未確認・留意点- 第3号(3m)・第4号(10m)試作機[5]が1kW機・10kW機のどれに当たるかは明記がなく、1kW機・10kW機への浜野製作所の関与範囲は「部品の一部」[6]という記述にとどまります
- 両社間の契約形態、取引額、出資の有無は公開されていません
- チャレナジーの「2020年の量産販売開始」という目標[26]が実現したことを示す一次情報は確認できません
- Garage Sumidaの開設時期は2014年4月[3][11]、4月16日[12]、5月[13]と出典で異なります
- 2024年以降、チャレナジーの発表に浜野製作所への言及はなく[29][30]、現在の製造拠点は南相馬市の菊池製作所内です[29]
6組み合わせの意味編集部の考察
考察この組み合わせの中心は、発明を実機にする工程にあったと考えられます。原理と特許を持つスタートアップには、図面を描き、部品を作り、組み立てて試す手段がありませんでした[5]。町工場には設計・板金・切削の技術と、その場で部品を作れる即応性がありました[8]。設計段階から一緒に考えられる距離にいたことが、試作の速さにつながったと推察できます。
浜野製作所にとっての意味は、受託加工からの脱却にあったとみられます。下請け型の量産加工だけでなく、設計・開発・試作という上流工程に関わる力をつけること[15]、企業サポートを新たな収益源にすること[3]が狙いであり、チャレナジーは「最初の成功事例」[3]として、その後のスタートアップ支援(連携450社超[17])の信用の基礎になったと考えられます。スタートアップ側の成果が、町工場側の事業転換の実績として働いたと言えるでしょう。
もう一つの要点として、共創の役割に終わりがあることが挙げられます。試作機が大型化すると、1社の町工場とそのネットワークでは対応できず、チャレナジーは全国の協力工場の分業へ移りました[5]。創業期の共創パートナーが、事業の成長段階に応じて交代する形と捉えられます。経済産業省のケーススタディは「有力なスタートアップ支援者との繋がりが出会いの連鎖を生む」と整理しています[5]。
7他社への応用編集部の考察
考察この型は、設計・加工・試作の技術を持つ中小製造業が、ハードウェアのスタートアップの創業期を支える場合に応用できると考えられます。中小製造業にとっては、受託加工から設計・開発の上流へ踏み出す機会になり、スタートアップにとっては、図面と部品を短い周期で試せる環境になることが期待できます。
成立の条件としては、第一に、設計段階から相談できる距離(物理的な近さと、担当者の即応性)が挙げられます[8]。第二に、試作の費用を賄う資金で、本事例ではNEDOの開発資金が使われました[5]。第三に、支援する側が「新しい収益源」として支援を位置づけ、受託加工とは別の評価軸(支援実績、設計開発案件の比率)で成果を測ることです[3][15][17]。
一方、本事例では両社の契約や金額、出資の有無が公開されておらず、町工場側が支援の対価をどう得たかは分かりません。また、製品が大型化・量産化する段階では、1社の町工場では対応しきれなくなる可能性があります[5]。創業期の支援者が、どの段階まで関わり、どこで次の協力先に引き継ぐかを、最初から見込んでおくことが望ましいと考えられます。
成立に必要な条件
- 設計段階から相談でき、部品をその場で作れる距離と即応性があること[8]
- 試作の費用を賄う資金(公的な開発資金など)を、スタートアップ側が確保していること[5]
- 支援する側が、受託加工とは別の評価軸(支援実績、設計開発案件の比率)で成果を測ること[3][15][17]
- 製品の大型化・量産化で1社では対応できなくなる段階を見込み、協力工場への引き継ぎ方を考えておくこと[5]
- 支援の対価(加工費、出資、ロイヤリティなど)を、着手前に取り決めること(本事例では非公開)