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共創事例
組紐技術と大学の複合材料拠点で、炭素繊維の耐震補強材を規格化し万博の構造材へ
小松マテーレ株式会社(開始当時は小松精練株式会社)(中堅企業) × 金沢工業大学 革新複合材料研究開発センター(ICC)(大学・研究機関)
日本 石川県能美市・白山市 事業化 枠組み JST センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム「革新材料による次世代インフラシステムの構築拠点」(中核機関:金沢工業大学、2013〜2021年度) 情報確認日 2026年10月13日
石川県の繊維加工会社・小松マテーレ(開始当時は小松精練)が、組紐の技術で炭素繊維をロープ状にした耐震補強材「カボコーマ・ストランドロッド」を、金沢工業大学の革新複合材料研究開発センター(ICC)と共同で建材に育てている共創です。JSTのCOIプログラムの枠組みで2013年11月から研究開発を進め[7] 、2015年に自社の旧本社棟で熱可塑性炭素繊維複合材として世界で初めて耐震補強に使い[18] 、2019年11月に炭素繊維の耐震補強材として日本初のJIS(JIS A 5571)が制定されています[3] 。2025年の大阪・関西万博ではNTTパビリオンで1,454本が建物の長期荷重を負担する構造部材として日本で初めて採用され[4] 、2026年9月には工場の稼働を止めない耐震補強工法が日本建築総合試験所の建築技術性能証明を取得しています[5] [6] 。
目次
共創の構造 背景と各組織の狙い 提供資源と役割 共同活動 成果物と成果 組み合わせの意味 他社への応用 出典 関連事例
1 共創の構造図解:共創プロジェクトの形
組紐技術と大学の複合材料拠点で、炭素繊維の耐震補強材を規格化し万博の構造材へ:共創の構造(小松マテーレ、金沢工大ICC) プロジェクト全体の段階 探索 PoC 共同開発 事業化 スケール Before| 起点 During| 共創 After| 成果 A 小松マテーレ 1 ニーズ・シーズ 組紐技術と炭素繊維で建材に進出したいが、 樹脂・建材の知見と性能評価の標準がない 2 提供リソース 組紐と炭素繊維の加工技術、製品化と販売、 自社建物という実証の場、標準化の申請 A 小松マテーレの成果 5 獲得成果 確認できた成果 世界初の耐震補強採用(2015年)、日本 初のJIS化(2019年)、万博の構造部材 (2025年)、工法の性能証明(2026年) 今後の目標・期待 2030年度に延べ100万㎡へ普及。2025年 度の販売目標の達成状況は未公表 B 金沢工大ICC 1 ニーズ・シーズ 複合材料をインフラに社会実装し、地域の 繊維産業を複合材料の川中産業に育てたい 2 提供リソース 多分野の専門家と研究者ネットワーク、試験設 備、標準化のデータ収集、学生による性能評価 B 金沢工大ICCの成果 5 獲得成果 確認できた成果 COI拠点でいち早く実用化した事例に。文科省で の展示、地域OI拠点の選抜、交付金事業の拠点 今後の目標・期待 企業との連携を広げ、複合材料の社会 実装と地域産業の発展、人材育成へ 3 共同活動 COIの枠組みで素材を共同開発 し、自社建物と文化財で実績を 積み、JIS化・万博の構造部材 採用・工法の性能証明へ 4 成果物 カボコーマ・ストランドロッ ド、施工実績、JIS A 5571、 万博パビリオンの構造部材、 CABKOMA工法と性能証明
Before起点 A 小松マテーレ
① ニーズ・シーズ 組紐技術と炭素繊維で建材に進出したいが、樹脂・建材の知見と性能評価の標準がない
② 提供リソース 組紐と炭素繊維の加工技術、製品化と販売、自社建物という実証の場、標準化の申請
B 金沢工大ICC
① ニーズ・シーズ 複合材料をインフラに社会実装し、地域の繊維産業を複合材料の川中産業に育てたい
② 提供リソース 多分野の専門家と研究者ネットワーク、試験設備、標準化のデータ収集、学生による性能評価
During共創 ③ 共同活動 COIの枠組みで素材を共同開発し、自社建物と文化財で実績を積み、JIS化・万博の構造部材採用・工法の性能証明へ
④ 成果物 カボコーマ・ストランドロッド、施工実績、JIS A 5571、万博パビリオンの構造部材、CABKOMA工法と性能証明
After成果 A 小松マテーレの成果
⑤ 獲得成果 確認できた成果 世界初の耐震補強採用(2015年)、日本初のJIS化(2019年)、万博の構造部材(2025年)、工法の性能証明(2026年) 今後の目標・期待 2030年度に延べ100万㎡へ普及。2025年度の販売目標の達成状況は未公表
B 金沢工大ICCの成果
⑤ 獲得成果 確認できた成果 COI拠点でいち早く実用化した事例に。文科省での展示、地域OI拠点の選抜、交付金事業の拠点 今後の目標・期待 企業との連携を広げ、複合材料の社会実装と地域産業の発展、人材育成へ
プロジェクト全体の段階
探索 PoC 共同開発 事業化 スケール
①ニーズ・シーズ ②提供リソース ③共同活動 ④成果物 ⑤獲得成果。図の内容は本文と同じ出典に基づきます。
段階:事業化 2015年の自社建物での採用を皮切りに、重要文化財や国宝の耐震補強、駅のホーム柵などに採用が続き
[3] [22] [25] 、2019年11月のJIS制定
[3] 、2025年4月の万博パビリオンでの構造部材採用
[4] を経て、2026年9月11日に「CABKOMA工法」が日本建築総合試験所の建築技術性能証明(第26-11号)を取得しています
[5] 。小松マテーレは2030年度に延べ100万㎡(5,000㎡の工場200棟相当)への普及を目標に掲げていますが
[5] 、カボコーマの売上高と施工件数は公開されておらず、2017年と2019年に示した2025年度の販売目標の達成状況も未公表です
[2] [3] 。販売中の製品として定着している一方、規模の拡大はこれからとみて、事業化の段階と判断しています(2026年10月時点)。
2 背景と各組織の狙い小松マテーレは染色加工を基盤とする繊維メーカーで、2007年に炭素繊維の用途開発を始め、2010年に建材用のロッド材に的を絞っています[9] [19] 。背景には、2008年ごろに石川県が打ち出した繊維産業の非衣料分野への進出を促す方針[26] と、2009年の「いしかわ炭素繊維クラスター」の発足があります[10] 。炭素繊維の束は軽くて強い一方、曲げに弱く折れやすいため、同社は組紐の技術で炭素繊維の芯をガラス繊維の鞘で覆う芯鞘構造を採りました[8] 。しかし熱可塑性樹脂の含浸と生産性の両立が難しく、樹脂や建材の知見も不足していました[9] 。
金沢工業大学は2013年にJSTのCOIプログラムの拠点(全国12拠点、私立大学では唯一)に選ばれ[27] 、2014年6月に白山市にICCを開所しています[1] 。COI拠点は、鉄やコンクリートに代わる軽量・長寿命の構造材料の社会実装と、炭素繊維の製品化で欧米に後れをとる状況の転換を狙いとしていました[8] [28] 。
一方、建築基準法では柱・梁などの構造材に炭素繊維を使えず、耐震改修促進法で増床とみなされない場合に耐震補強材として使える範囲にとどまっていました[1] 。性能評価の標準もなく[8] 、試験と標準化が普及の前提でした。
3 提供資源と役割
A 小松マテーレ株式会社(開始当時は小松精練株式会社) 中堅企業・石川県能美市 ・ 公式サイト
1943年設立の染色加工を基盤とする繊維メーカー(東証プライム)[13] [24] 。共創の開始当時は小松精練株式会社で、2017年3月期の連結売上高358億円、従業員1,289名[1] 。事業の多角化に合わせて2018年10月1日に小松マテーレへ社名を変更[24] 。2026年3月期の連結売上高415億円、従業員1,227名[14] 。
役割 素材の開発・製品化・販売、自社建物での実証
① ニーズ・シーズ シーズは、2007年から取り組んできた炭素繊維の用途開発と、北陸の伝統産業である組紐の技術です[8] [9] 。ニーズは、石川県が2008年ごろに打ち出した繊維産業の非衣料分野への進出の方針に応じて[26] 、炭素繊維を建材として事業化することでした。ただし樹脂の含浸と生産性の両立が難しく、樹脂や建材の知見が不足していました[9] 。炭素繊維の耐震補強材には性能評価の標準がなく、建築基準法上は構造材に使えないため、普及には標準化と認証が必要でした[1] [8] 。
② 提供リソース 組紐の芯鞘構造で炭素繊維をロープ状にする技術と、熱可塑性樹脂を含浸させる製造技術[8] 。製品化と生産・検査設備への投資[2] 、販売代理店と販売子会社を通じた販売[2] [32] 。自社の旧本社棟(fa-bo)と第2製造部本棟を実証の場として提供[13] [18] 。新市場創造型標準化制度への単独申請[8] と、「炭素繊維撚り線研究会」の組織[5] [13] 。
③ 共同活動での担当 COIのテンションロッドのテーマで2016年4月からテーマリーダーを務め[7] 、材料の開発・製品化、施工実績の積み上げ、JIS申請、研究会の組織、性能証明の申請を担った[3] [5] [8] 。
⑤ 確認できた成果 2015年の旧本社棟fa-boで熱可塑性炭素繊維複合材の耐震補強材として世界初の採用[18] 。善光寺経蔵、旧富岡製糸場西置繭所、清水寺本堂などの文化財やJR大阪駅のホーム柵に採用[20] [21] [22] [25] 2019年11月に炭素繊維の耐震補強材として日本初のJIS(JIS A 5571)が制定[3] 。2018年にJEC Innovation Awards建築・インフラ部門を日本企業として初めて受賞[23] 2025年の万博NTTパビリオンで1,454本が建物の長期荷重を負担する構造部材として日本で初めて採用[4] 2026年9月にCABKOMA工法が日本建築総合試験所の建築技術性能証明(第26-11号)を取得[5] 。2025年度の繊維学会技術賞を受賞[15] 補強済みの自社工場は2024年1月の能登半島地震で被害が軽微だった[13]
⑤ 今後の目標・期待 2030年度に延べ100万㎡(5,000㎡の工場200棟相当)への普及[5] 販売目標は、2017年時点で2025年度にカボコーマ全体50億円・ストランドロッド30億円[2] 、2019年時点で同30億円・15億円[3] (達成状況は未公表)
B 金沢工業大学 革新複合材料研究開発センター(ICC) 大学・研究機関・石川県白山市(金沢工業大学やつかほリサーチキャンパス) ・ 公式サイト
金沢工業大学が文部科学省の国際科学イノベーション拠点整備事業で整備し、2014年6月に開所した複合材料の産学連携拠点[1] [28] 。JSTのCOIプログラム拠点「革新材料による次世代インフラシステムの構築」(2013〜2021年度)の中心的な実施場所で、所長は鵜澤潔教授[1] [27] 。2017年6月時点の所員は36名[1] 。2020年に経済産業省の地域オープンイノベーション拠点選抜制度の初回9拠点に選ばれ、メンバーシップ制度に約60社70名が参加[28] 。2023年度からは内閣府の地方大学・地域産業創生交付金事業の拠点[12] 。
役割 専門家の助言、試験設備、標準化・認証のデータ
① ニーズ・シーズ COI拠点として、鉄やコンクリートに代わる軽量・長寿命の複合材料を土木・建築などのインフラに社会実装することが目標でした[8] 。日本は炭素繊維の約7割を生産しながら、国内メーカーの製品化のシェアは1割以下とされ[28] 、企業の加工技術を磨いて多様な分野への進出を促すことを狙いとしていました[8] 。2023年度からの交付金事業では、石川県の繊維産業を複合材料の川中産業に育てることを目標にしています[12] 。
② 提供リソース 樹脂や建材など多分野の専門家と研究者ネットワーク[6] [9] 。壁の少ない「一つ屋根の下」の研究棟と成形・試験設備[8] [9] 。JIS対応の測定方法の策定とデータ収集に対する機器と技術者の支援[9] 。COI拠点として物質・材料研究機構や土木研究所など他の研究機関と同じ枠組みで取り組む場[7] 。2024・2025年度のコーオプ教育による学生の性能評価[6] 。
③ 共同活動での担当 COIのテンションロッドのテーマで共同研究を行い[7] 、JIS化に向けた測定方法とデータ収集を支援[9] 。JEC賞に共同で応募[23] 。性能証明では鵜澤所長が専門的見地から性能評価を支え、学生が材料評価に参加した[6] 。
⑤ 確認できた成果 COI拠点の最終報告書で「いち早く実用化・商品化を達成している」事例として記載[7] 2018年に文部科学省エントランスでカボコーマを含む成果を企画展示[27] 2020年に経済産業省の地域オープンイノベーション拠点に選抜[28] 。2023年度に内閣府交付金事業の拠点に採択[12]
⑤ 今後の目標・期待 企業との連携を広げ、先端複合材料の社会実装、地域産業の発展、実践的な人材育成に取り組む(大学の方針)[6]
4 共同活動③ COI拠点の研究テーマ「テンションロッド」は2013年11月に始まり、小松精練、金沢工業大学、物質・材料研究機構(NIMS)などが参画しています[7] 。小松マテーレは、ICCに「さまざまな材料の専門家がいた」ことで樹脂や建材の助言と試験設備を得て、開発が「劇的に加速した」と振り返っています[9] 。
最初の実用例は、小松精練の旧本社棟を改修した「fa-bo」(隈研吾氏設計、2015年竣工)で、外装1,031本、内装2,778本などのロッドを張り、熱可塑性炭素繊維複合材を耐震補強材に使った世界初の建物とされています[18] [19] 。建築基準法の指定材料ではないため、在来工法の補強を基本に、ロッドは性能を上乗せする位置づけでした[19] 。その後、善光寺経蔵(重要文化財)、旧富岡製糸場西置繭所(国宝)、清水寺本堂などの耐震補強や、JR大阪駅のホーム柵に採用が広がっています[20] [21] [22] [25] 。
標準化では、小松精練が経済産業省の「新市場創造型標準化制度」に単独で申請し、ICCと連携してJIS対応の測定方法の策定とデータ収集を進めました[1] [8] [9] 。石川県工業試験場やNIMSの協力で試験を重ね[8] 、2017年7月に採択され[1] 、2019年11月20日に「耐震補強用引張材-炭素繊維複合材料より線」(JIS A 5571)が官報で告示されています[3] [29] 。
COIの終了(2022年3月)後も協力は続いています[33] 。小松マテーレは日本女子大学・金沢工業大学と「炭素繊維撚り線研究会」を設け、工場の稼働を止めずに屋根面を補強する工法の公的認証を目指しました[11] [13] 。自社の第2製造部本棟(約7,000㎡)を約7か月で補強し、2024年1月の能登半島地震では被害が軽微だったとしています[13] 。2024・2025年度には内閣府の交付金事業の一環で金沢工業大学の学生が社員として材料の評価を担い、鵜澤潔ICC所長が性能評価を支えています[6] [12] 。
2025年4月の大阪・関西万博では、NTTパビリオン(設計・監理NTTファシリティーズ、施工奥村組)に1,454本を使い、屋根フレームから基礎までを連結して張力を導入し、屋根架構を支えています[4] [30] [31] 。建築基準法第85条の仮設建築物の緩和を適用し、第三者機関の安全審査を経て、建物の長期荷重を負担する構造部材として日本で初めて採用されました。夏場の高温期を含む長期荷重でのクリープ変形が最大の課題で、設計段階から実験を繰り返したとしています[4] [16] 。2026年9月11日には「CABKOMA工法」が日本建築総合試験所の建築技術性能証明(第26-11号)を取得しています[5] [17] 。
5 成果物と成果④⑤
成果物
熱可塑性炭素繊維複合材「カボコーマ・ストランドロッド」(直径9.3mm、84g/m、比重は鉄の約1/5、160m巻で約14kg)[4] [32] fa-bo(2015年)、善光寺経蔵、旧富岡製糸場西置繭所、清水寺本堂、JR大阪駅のホーム柵などの施工実績[18] [20] [21] [22] [25] JIS A 5571「耐震補強用引張材-炭素繊維複合材料より線」(2019年11月20日告示)[3] [29] 万博NTTパビリオンの構造部材(1,454本、2025年)[4] CABKOMA工法(炭素繊維撚り線ブレースによる水平構面補強工法)と建築技術性能証明 第26-11号(2026年9月)[5] カボコーマの売上高、出荷量、施工件数は公開されていません。小松マテーレの資材ファブリック部門(2024年3月期82.9億円)で「建材」が伸びたとの記載がありますが[13] 、カボコーマの内訳は示されていません。販売目標は2017年8月に「2025年度までにカボコーマ全体50億円・ストランドロッド30億円」[2] 、2019年11月に「同30億円・15億円」[3] と示され、達成状況は未公表です。万博での1,454本[4] 、fa-boでの本数[19] は当事者の発表値です。
未確認・留意点 カボコーマの売上高・施工件数は非公開。2025年度の販売目標は出典により額が異なり(2017年:50億円・30億円、2019年:30億円・15億円)、達成状況は未公表[2] [3] 建築基準法第37条第2項の建築材料には該当せず[32] 、新築の構造耐力上主要な部分には使えない。万博での構造部材採用は仮設建築物の緩和(第85条)によるもので[4] 、2026年の性能証明も既存の鉄骨造工場・倉庫の水平構面補強工法に対するもの[5] 。万博で安全審査を行った第三者機関の名称は未公表[4] 万博案件や個別の施工へのICCの関与は確認できない(小松マテーレの発表にICCの記載がない)[4] 。性能証明では金沢工業大学が協力機関として記載されている[5] [6] COI内の共同研究の契約形態や研究費の配分は公開資料で確認できない。COI終了報告書では、テンションロッドのテーマ(2013年11月〜2020年3月)に小松精練が参画し、2016年4月からテーマリーダーを務めたことが分かる[7] 善光寺経蔵の施工時期は出典により2016年12月[3] 、2017年1月[1] 、竣工2017年9月[20] と異なる ICCの設立年は取材記事では2013年[10] 、金沢工業大学の発表では2014年6月開所[1] [28] 。本ページは大学の発表に従っている JIS化は当初2018年を目標としていたが[1] 、制定は2019年11月[3] 。工法の認定も2020年度内の目標から[3] 、2026年9月の取得まで6年を要した[5] 2026年3月期の有価証券報告書は性能証明の取得を「2026年8月」と見込んでいたが[14] 、取得の発表は9月11日[5]
6 組み合わせの意味編集部の考察 考察 この組み合わせの要点は、繊維加工会社が建材の知見を持たないまま建築分野に入るうえで足りなかった専門知識と試験の場を、大学の複合材料拠点が埋めたことにあると考えられます。小松マテーレは組紐の技術と製品化・販売を、ICCは樹脂・建材の専門家の助言、試験設備、JIS対応のデータ収集を担いました[8] [9] 。同社は「ICCがなければできなかった」と述べています[9] 。
もう一つの要点は、技術よりも制度が普及の壁になっている分野で、標準化と第三者証明を共創の目標に据えたことです。建築基準法上は構造材に使えないため[1] 、JIS制定(2019年)、仮設建築物の緩和を使った万博での構造部材採用(2025年)、性能証明(2026年)と、使える範囲を一つずつ広げてきたとみられます[3] [4] [5] 。万博での採用を小松マテーレは「第一歩」と位置づけており[4] 、新築の構造材としての使用はまだ認められていません[32] 。
また、旧本社棟と自社工場を最初の実証の場にしたことが施工実績の起点になり、能登半島地震の経験が工場向けの提案につながったと推察できます[13] [18] 。
7 他社への応用編集部の考察 考察 この型は、素材・部品メーカーが自社技術を別の産業(建築、土木、インフラなど)に持ち込む場合に応用できると考えられます。進出先の専門家と試験設備を持つ大学拠点と組むことで、自前で揃えにくい評価の能力を補える可能性があります。公的プログラムの研究テーマに位置づけ、複数の研究機関と同じ枠組みで取り組めた点も参考になるとみられます[7] 。
条件としては、第一に、進出先で性能を示すための標準や認証を早い段階で見極め、それ自体を共創の目標にすることです。本事例では新市場創造型標準化制度を使い、JIS化を採択から2年で実現しています[3] 。第二に、自社の建物や設備を最初の実証の場にして、施工実績と地震時のデータを得ることです[13] [18] 。第三に、公的プログラムの終了後も研究会や人材育成の仕組みで協力を続けることで、本事例では研究会と学生の参加が性能証明に必要なデータの蓄積につながっています[5] [6] 。
留意点として、制度の壁が高い分野では事業規模の拡大に時間がかかります。開発着手から性能証明まで16年を要し[5] [19] 、販売目標は2017年の「2025年度に30億円」から2019年に「15億円」へ引き下げられ、実績は公表されていません[2] [3] 。進出先の規制の見通しと、それまでの投資の負担をどう許容するかを、最初に考えておくことが望ましいでしょう。
成立に必要な条件
進出先の分野で性能を示すための標準や第三者証明を見極め、それ自体を共創の目標にすること[3] [5] 進出先の分野の専門家と試験設備を持つ大学拠点と組み、自前で揃えにくい評価の能力を補うこと[9] 自社の建物や設備を最初の実証の場にして、施工実績と災害時のデータを得ること[13] [18] 公的プログラムの終了後も研究会や人材育成の仕組みで協力を続け、認証に必要なデータを蓄積すること[5] [6] 制度の壁が高い分野では事業化までの期間が長くなることを織り込み、投資の負担を許容する計画を持つこと[2] [3] [19]