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共創事例
駅の実証からベンチャーのAI決済技術を合弁会社で事業化し、無人決済店舗を280店舗超に広げる
JR東日本スタートアップ株式会社(JR東日本グループ)(大手企業) × サインポスト株式会社(スタートアップ)
日本 東京都 スケール 枠組み JR東日本スタートアッププログラム(2017年度) 情報確認日 2026年10月5日
JR東日本のCVCであるJR東日本スタートアップと、無人AI決済システムを開発していたサインポストの共創です。2017年のアクセラレータープログラム採択から駅での実証を2回行い、2019年に50対50の合弁会社「TOUCH TO GO」を設立[7] [8] 。2020年に高輪ゲートウェイ駅で直営1号店を開き[12] 、外販によって2026年9月時点で導入280店舗超に広がっています[29] 。一方、サインポストは2026年4月に保有株式をすべて譲渡し、2社の合弁としての共創は終了しています[26] [27] 。
目次
共創の構造 背景と各組織の狙い 提供資源と役割 共同活動 成果物と成果 組み合わせの意味 他社への応用 出典 関連事例
1 共創の構造図解:共創プロジェクトの形
駅の実証からベンチャーのAI決済技術を合弁会社で事業化し、無人決済店舗を280店舗超に広げる:共創の構造(JR東日本スタートアップ、サインポスト) プロジェクト全体の段階 探索 PoC 共同開発 事業化 スケール Before| 起点 During| 共創 After| 成果 A JR東日本スタートアップ 1 ニーズ・シーズ 駅ナカ店舗の人手不足を解消したい。既存のコ ンビニ事業の仕組みの外で新事業を試したい 2 提供リソース 駅という実証の場と1号店の立地、小売運営 の人材、出資、グループ店舗という導入先 A JR東日本スタートアップの成果 5 獲得成果 確認できた成果 グループ店舗で省人化と営業時間延長。外 販で導入280店舗超、株主として関与を継続 今後の目標・期待 小売の労働力不足と地域店舗の維持の解 決(売却額・現在の持株比率は未公表) B サインポスト 1 ニーズ・シーズ 開発した無人AI決済システムを実店舗で使え るサービスに仕上げたい。小売の経験がない 2 提供リソース 無人AI決済システムの技術と改 良開発、エンジニアの出向、出資 B サインポストの成果 5 獲得成果 確認できた成果 技術の事業化とロイヤリティ収入。 株式の段階的な譲渡で合弁から退出 今後の目標・期待 無人レジによる人手不足の解決(合弁 からの退出後は他事業に重点を移行) 3 共同活動 駅で2回の実証を行い、2019年 に50対50の合弁会社を設立。 高輪ゲートウェイ駅の1号店を 経て、他社店舗へ外販 4 成果物 合弁会社TOUCH TO GO、無人決済シ ステムTTG-SENSE、導入280店舗超
Before起点 A JR東日本スタートアップ
① ニーズ・シーズ 駅ナカ店舗の人手不足を解消したい。既存のコンビニ事業の仕組みの外で新事業を試したい
② 提供リソース 駅という実証の場と1号店の立地、小売運営の人材、出資、グループ店舗という導入先
B サインポスト
① ニーズ・シーズ 開発した無人AI決済システムを実店舗で使えるサービスに仕上げたい。小売の経験がない
② 提供リソース 無人AI決済システムの技術と改良開発、エンジニアの出向、出資
During共創 ③ 共同活動 駅で2回の実証を行い、2019年に50対50の合弁会社を設立。高輪ゲートウェイ駅の1号店を経て、他社店舗へ外販
④ 成果物 合弁会社TOUCH TO GO、無人決済システムTTG-SENSE、導入280店舗超
After成果 A JR東日本スタートアップの成果
⑤ 獲得成果 確認できた成果 グループ店舗で省人化と営業時間延長。外販で導入280店舗超、株主として関与を継続 今後の目標・期待 小売の労働力不足と地域店舗の維持の解決(売却額・現在の持株比率は未公表)
B サインポストの成果
⑤ 獲得成果 確認できた成果 技術の事業化とロイヤリティ収入。株式の段階的な譲渡で合弁から退出 今後の目標・期待 無人レジによる人手不足の解決(合弁からの退出後は他事業に重点を移行)
プロジェクト全体の段階
探索 PoC 共同開発 事業化 スケール
①ニーズ・シーズ ②提供リソース ③共同活動 ④成果物 ⑤獲得成果。図の内容は本文と同じ出典に基づきます。
段階:スケール 導入店舗数は2024年10月に200店舗
[22] 、2026年9月に280店舗超
[29] と拡大が続いています。ただし、2026年4月1日にサインポストが保有する全株式を譲渡し、TOUCH TO GOはセキュア(東証スタンダード)の連結子会社になっています
[26] [27] 。当初の2社による合弁は終了し、JR東日本スタートアップは株主として残っています
[28] 。TOUCH TO GOは2025年3月期時点で営業損失があり、黒字化は今後の目標です
[27] [28] 。
2 背景と各組織の狙いJR東日本は2017年度に「JR東日本スタートアッププログラム」を始め、翌2018年2月にCVCのJR東日本スタートアップを設立しました[1] [3] 。親会社側には人口減少への危機感と、自前主義の限界という認識がありました[31] 。駅ナカの店舗では人手不足が課題で、グループ内のコンビニは既存の仕組みの中で動いているため、新しい技術を試す余地が限られていました[7] [9] 。
サインポストは、約8年前から無人AI決済システムを研究開発していたITコンサルティング企業です[14] 。地方の人手不足が開発の動機でしたが[10] 、小売の経験がなく、物流や発注の知見が足りませんでした[10] 。
2017年のプログラムで両者が出会い、駅という実際の場所で技術を試すことから共創が始まりました[1] [2] 。
3 提供資源と役割
A JR東日本スタートアップ株式会社(JR東日本グループ) 大手企業・東京都港区 ・ 公式サイト
JR東日本が100%出資するCVC。2018年2月設立、出資枠50億円[3] 。親会社のJR東日本が2017年度のアクセラレータープログラムを主催し、サインポストを採択した[1] 。
役割 実証の場と小売運営の提供、合弁の共同出資者
① ニーズ・シーズ 駅ナカ店舗のサービス向上と人手不足の解消が狙いでした[7] 。グループ内のコンビニは「決まった仕組みの中で動いている」ため、既存事業に負荷をかけて新しい事業を進めにくいという制約があり[9] 、親会社側には人口減少への危機感と自前主義の限界がありました[31] 。
② 提供リソース 実証場所として大宮駅のイベントスペースと赤羽駅ホームの店舗跡地を提供し[4] [7] 、常設1号店の場所として新駅・高輪ゲートウェイ駅の改札内を提供しました[12] 。合弁には50%を出資し[8] 、社長の阿久津智紀氏をJR東日本に在籍のまま派遣、小売経験者をグループから出向させました[13] [17] 。実証と1号店は交通系電子マネーで決済し[4] [12] 、グループの紀ノ国屋やNewDaysが導入先になりました[15] [21] [22] 。
③ 共同活動での担当 駅の実証場所と1号店の立地を提供し、合弁会社の社長と小売経験者を派遣。店舗運営の設計を担当した[13] [17] 。
⑤ 確認できた成果 グループ店舗への導入。NewDays飯田橋東口では約80%の省人化と営業時間の延長を実現[21] 。高輪の1号店は約60㎡を通常3名のところ1名で運営[19] 合弁会社を通じた外販で、紀ノ国屋、ファミリーマート、ANA FESTA、東急ストアなどへ導入が拡大[15] [16] [20] [22] 2026年の再編後も株主として残り、青梅鉄道公園への導入や品川駅での催事など、グループとの関係は継続[28] [29]
⑤ 今後の目標・期待 小売店舗の労働力不足と地域店舗の維持という課題の解決[8]
B サインポスト株式会社 スタートアップ・東京都中央区 ・ 公式サイト
2007年設立のITコンサルティング企業。2017年11月に東証マザーズ上場(現在はスタンダード市場)、2026年2月期の売上高31.39億円、従業員204名[27] 。プログラムにはベンチャー企業として採択されており[1] 、本ページでは共創開始時の位置づけに合わせてスタートアップとして分類している。
役割 無人AI決済システムの技術提供、合弁の共同出資者
① ニーズ・シーズ シーズは、約8年にわたり研究開発していた無人AI決済システム「スーパーワンダーレジ」です[4] [14] 。開発の動機は地方の人手不足でした[10] 。一方で「私たちは小売りの経験がないので、物流や商品の発注など分からない部分がある」という制約があり[10] 、技術を店舗サービスに仕上げる相手が必要でした。
② 提供リソース 無人AI決済システム「スーパーワンダーレジ」と、その改良開発[4] [14] 。合弁には50%を出資し[8] 、副社長の波川敏也氏と、設立時5名・高輪開業時7名のエンジニアを出向させました[9] [14] 。有価証券報告書では、合弁会社への技術供与と役員兼任が2026年2月末まで確認できます[27] 。
③ 共同活動での担当 システムの開発と認識精度の向上、実証の全体マネジメントを担当した[9] [14] 。
⑤ 確認できた成果 TTG-SENSEシリーズの販売に関するロイヤリティ収入(金額は非開示)[23] 2022年にTOUCH TO GO株の一部をファミリーマートへ譲渡し、関係会社株式売却益2.32億円を計上[18] 2026年4月に保有する全株式を譲渡し、売却益19百万円を計上(関係会社株式の簿価は約5.4億円)[23] [27] [30] 。一方で持分法投資損失が発生していた(2024年2月期△7,321万円、2025年2月期△2,099万円)[23]
⑤ 今後の目標・期待
4 共同活動③ 出発点は2017年度の「JR東日本スタートアッププログラム」です。237件の応募から19件が採択され、サインポストはアクセラレーションコースに選ばれました[1] 。同年11月、大宮駅西口のイベントスペースで第1弾の実証を実施。約27㎡の店舗に約130種類の商品を置き、同時入店は1名で、出口には人を配置していました[2] [4] [5] 。サインポストはこの年度の最優秀賞を受賞しています[4] [8] 。
2018年10月から12月には、赤羽駅のホーム上の店舗跡地で第2弾を実施しました。同時入店3名、複数個の商品取得や棚への返却の認識に対応し、無人で運営しました。カメラは棚用約100台、天井用16台です[4] [5] 。実証で精度が上がり、両社が「いけそうだ」という感触を得たことから、2019年2月に合弁会社設立の検討で基本合意し[7] 、同年7月1日に株式会社TOUCH TO GOを50対50で設立しました[8] 。合弁にした理由として、特許と事業主体の整理、大企業の単年度収益の制約を避けること、グループ外に売りやすくすることが語られています[9] 。
2020年3月23日、高輪ゲートウェイ駅の改札内に直営1号店が開業しました。約60㎡に約600種類、営業は6時から24時で、同時入店は10名に拡大[12] [14] 。JR側の小売経験者が運営設計を、サインポストから出向したエンジニアがシステムを担当しましたが、波川氏は「分担というより『一緒に』つくってきた」と述べています[14] 。開店1か月で認識成功率90%超と公表されました[13] 。
その後は外販に移ります。2020年10月に紀ノ国屋が初めて導入し[15] 、2021年3月にファミリーマートと資本業務提携して実用化1号店を開業[16] 。同年に東芝テックと資本業務提携し、販売・導入・保守を担う体制を作り[20] 、KDDIのファンドからも調達しました[33] 。2024年10月に導入200店舗を突破し[22] 、2026年9月時点で280店舗超に達しています[29] 。
5 成果物と成果④⑤
成果物
合弁会社「株式会社TOUCH TO GO」(2019年7月1日設立、資本金3億円・資本準備金3億円、出資比率50対50)[8] 無人決済システム「TTG-SENSE」と派生製品(TTG-SENSE MICRO、TTG-SENSE SHELF)、多機能セルフレジ「TTG-MONSTAR」[20] [22] 。月額サブスクリプション型で「数人程度の人件費相当」[12] 高輪ゲートウェイ駅の直営1号店(約60㎡、約600種類)[12] 導入実績:2024年10月に200店舗(TTG-SENSE系とTTG-MONSTAR各100)[22] 、2026年9月に280店舗超[29] 。ファミリーマートの無人決済店舗は2025年10月に53店舗目[24] 合弁会社の業績は、2025年3月期で売上高9.68億円、営業損失0.63億円、純資産11.2億円です[27] 。導入店舗数の拡大と黒字化は別の問題であり、新しい親会社のセキュアは「今年度中の黒字化」を目標に掲げています[28] 。
未確認・留意点 2026年4月1日にサインポストは全株式を譲渡し、合弁は終了しました[26] [27] 。合弁時の知財の帰属や、譲渡後のライセンス・ロイヤリティの扱いは公開されていません JR東日本スタートアップの現在の持株比率と売却額、ファミリーマート・東芝テック・KDDIファンドの出資額は公開されていません 高輪1号店の面積は公式が約60㎡[12] ですが、取材記事に約198㎡という記載もあります。本ページは公式発表を採用しています 合弁の資本金が3億円[8] から1億円[20] [22] になった経緯は未確認です 目標店舗数は「5年で100店舗」[9] 、「2023年までに100店舗」[19] 、「1,000店」[34] など、時期によって表現が異なります
6 組み合わせの意味編集部の考察 考察 この共創の中心には、「技術はあるが売る場所と運営の知見がない」サインポストと、「場所と顧客と運営の知見はあるが、既存事業の中では新しい技術を試せない」JR東日本の組み合わせがあったと考えられます。駅のイベントスペースやホーム上の店舗跡地という、失敗しても本業に影響しない場所で2回実証できたことが[4] [7] 、技術を店舗サービスに仕上げる段階を支えたとみられます。
もう一つの要点として、合弁会社という器の選び方が挙げられます。JR側の阿久津氏は、大企業は単年度で収益を出す必要があり初年度赤字前提の判断が難しいこと、鉄道会社とベンチャーは文化が違い「新会社をつくるのが一番早かった」ことを挙げています[9] [17] 。サインポスト側の波川氏は、本業の色に左右されない会社のほうが対外的に戦いやすく、合弁だと「1社だと逃げようがない」ので責任感が違ったと述べています[9] [14] 。技術を持つ側と場を持つ側が、どちらの本業からも切り離した会社に人と資金を出し合ったことで、グループ外への外販が可能になったと推察できます。
同時に、この事例からは合弁の「出口」についての示唆も得られます。サインポストは2022年に株式の一部をファミリーマートへ譲渡し[18] 、2026年に全株式を譲渡して退出しました[26] [27] 。技術を持ち込んだ側が、持分法投資損失を抱えながら段階的に資本を回収した一方[23] 、事業は新しい親会社のもとで拡大を続けています[28] [29] 。共創の成果(事業)と共創の関係(合弁)は、別々に終わりうると考えられます。
7 他社への応用編集部の考察 考察 この型は、自社に顧客接点や現場(店舗、駅、施設、工場)を持つ大企業が、技術を持つ企業と組んで、その現場を「技術を仕上げる実証の場」として提供する場合に応用できると考えられます。鍵になるのは、本業に影響しない場所で段階的に実証できること、実証の後に技術を外販する器(合弁や新会社)を用意すること、そして現場の運営経験者を実際に出すことだと推察できます。本事例では、JR側が小売経験者を出向させ、ベンチャー側がエンジニアを出向させて「一緒に」作っています[14] 。
一方、合弁には出口の設計も必要になると考えられます。本事例は、合弁からの退出、株式の段階的な譲渡、新しい親会社への移行という経過をたどりました[18] [26] [27] 。合弁の設立時に、知財の帰属、ライセンスの扱い、持分の譲渡条件、どちらかが退出したときの事業の継続方法を取り決めておくことで、後の選択肢が広がる可能性があります。本事例では、これらの条件は公開されていません。
また、導入店舗数の拡大と、合弁会社の黒字化は、別の問題とみられます[27] [28] 。月額型のシステム販売は導入が増えるほど運用コストもかかると考えられるため、どの時点で収益化するかを、出資者間で事前に共有しておくことが望ましいでしょう。
成立に必要な条件
本業に影響しない場所で、段階的に実証できること(本事例は駅のイベントスペースとホーム上の店舗跡地)[4] [7] 現場の運営経験者と技術者の双方が、実際に新会社へ人を出すこと[9] [14] 実証の後に技術を外販する器(合弁・新会社)を、どちらの本業からも切り離して用意すること[9] [17] 合弁の設立時に、知財の帰属、ライセンス、持分の譲渡条件、退出時の事業継続の方法を取り決めること 導入拡大と黒字化の時期を分けて考え、出資者間で収益化の見通しを共有すること[27] [28]