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共創事例
産地組合の品質基準と外部クリエイターの統一ブランドで、衰退したタオル産地を再生する
今治タオル工業組合(中小企業) × 株式会社サムライ(SAMURAI)(中小企業)
日本愛媛県今治市・東京都スケール枠組み 中小企業庁「JAPANブランド育成支援事業」(2006〜2008年度、2009年度は先進的ブランド展開支援事業)。今治商工会議所・今治市が連携情報確認日 2026年10月13日
愛媛県今治市のタオル産地は、1991年の約5万トンをピークに生産量が5分の1まで落ち込み、2006年に中小企業庁のJAPANブランド育成支援事業で「今治タオルプロジェクト」を始めています[7]。四国タオル工業組合(現・今治タオル工業組合)が「5秒ルール」など独自の品質基準と認定制度を運営し、クリエイティブディレクターの佐藤可士和氏(SAMURAI)がロゴマークと「白いタオル」を軸に統一ブランドを設計しています[5][8][16]。生産量は2009年の底から回復し、ブランドは2025年に内閣総理大臣感謝状を受けていますが、2025年の生産数量は6,535トンと底を下回り、組合員は68社(2026年4月)に減っています[1][9]。
1共創の構造図解:共創プロジェクトの形
Before起点
A今治タオル工業組合
① ニーズ・シーズ輸入品に押され生産量が5分の1になった産地を、自主努力でブランド化して立て直したい
② 提供リソース産地の生産力と職人、品質基準・認定・商標の運営、補助金とタグ収益の財源
BSAMURAI(佐藤可士和)
① ニーズ・シーズ品質の高い産地のタオルを、ブランディングで世界に通用する産地ブランドにしたい
② 提供リソースブランドコンセプト、ロゴ、キープロダクト、店舗の空間設計、知名度による発信力
During共創
③ 共同活動組合が品質基準・商標・認定を運営し、佐藤氏がコンセプト・ロゴ・白いタオル・店舗を設計。2018年以降は各社ブランド育成の第2フェーズへ
④ 成果物ロゴと認定マーク、地域団体商標、12項目の品質基準、白いタオル、資格制度、南青山店・本店、第2フェーズの施策
After成果
A今治タオル工業組合の成果
⑤ 獲得成果確認できた成果生産量が底から回復し認知度71%へ。タグ払出5,442万枚。ただし2025年は6,535トン・68社に減少今後の目標・期待各メーカーのブランド育成(第2フェーズ)、産地全体の未来図づくり、省力化
BSAMURAI(佐藤可士和)の成果
⑤ 獲得成果確認できた成果代表的な仕事として紹介され、本店はJCD Design Award 2017「BEST100」今後の目標・期待各メーカーを際立たせる第2フェーズ(報酬・契約は未公開)
プロジェクト全体の段階
探索PoC共同開発事業化スケール
①ニーズ・シーズ ②提供リソース ③共同活動 ④成果物 ⑤獲得成果。図の内容は本文と同じ出典に基づきます。
段階:スケール 2007年2月のブランドマーク発表以降、組合員企業が品質基準に合格した商品に認定マークを付けて販売する仕組みが運用されています
[4][7]。2012年の南青山店、2017年の本店刷新を経て
[7][29]、2018年以降は各メーカーのブランド育成を狙う「第2フェーズ」に入り、2023年からメーカーポップアップ、2024年にデジタルアートギャラリーを始めています
[11][12][27]。2025年4月には内閣総理大臣感謝状を受けています
[9][10]。一方、生産数量は2025年に6,535トンで2009年の底(9,381トン)を下回り、組合員は2026年4月時点で68社に減っています
[1][7]。産地ブランドとして定着・拡大した段階と判断しつつ、産地の規模は縮小しています。佐藤氏の2021年以降の新たな関与は公開情報で確認できていません(2026年10月時点)。
2背景と各組織の狙い
今治市は1894年にタオル製造が始まった国内最大のタオル産地で、糸を撚る、染める、織る工程を分業する200近い工場が集まっています[3][32]。生産数量は1991年の約5万トンをピークに中国製品の輸入増で減り続け、2009年には5分の1の9,381トンに落ち込み、組合員数も1976年の500社から2013年末には117社に減っています[7]。組合は政府に繊維セーフガードの発動を求めましたが、2004年4月に調査が打ち切られ、「産地が一丸となり自主努力の道を探」ることになりました[7]。
2006年、四国タオル工業組合は今治商工会議所・今治市と連携し、中小企業庁の「JAPANブランド育成支援事業」に採択されました[7][24][34]。支援は2006〜2008年度の3年間で、2009年度に1年延長されています[23]。組合は補助金に加えて商工会議所や行政からも資金を募り、海外見本市への出展に使われることの多い補助金を、クリエイティブディレクターの招聘に充てました[22]。
組合によると、佐藤可士和氏は当時、行政に関わる仕事を受けていなかったため一度は要請を断りましたが、持ち帰った今治タオルを使ってその風合いと吸水性に可能性を感じ、引き受けたとされています[22]。組合の公式サイトは、佐藤氏の言葉として「驚き、というより、感動だった」を紹介しています[3]。
3提供資源と役割
A今治タオル工業組合 中小企業・愛媛県今治市 ・ 公式サイト
1952年設立の工業組合。2006年当時の名称は四国タオル工業組合で、2017年1月に現名称へ改組[1]。タオル製造業の指導・教育、組合ブランド推進事業、共同購買などを行う[1]。組合員は1976年の500社をピークに2013年末117社[7]、2026年4月時点で68社(従業員1,796人、2025年の生産数量6,535トン)[1][2]。職員8人、年間総収入4億6,800万円(2025年度)[1]。理事長は2025年5月から田中良史氏(田中産業社長)[1][13]。
- 役割
- 品質基準・認定制度の運営、産地の合意形成
- ① ニーズ・シーズ
- 中国製タオルの輸入増で生産量が1991年から18年連続で減り、2009年には5分の1の9,381トンに落ち込んでいました[7]。2001年に繊維セーフガードの発動を政府に求めましたが2004年4月に調査が打ち切られ、「産地が一丸となり自主努力の道を探」る必要がありました[7]。海外見本市への出展だけでは次につながらないという組合企業の指摘から、補助金をブランド構築に使うことにしています[22]。
- ② 提供リソース
- 糸を撚る・染める・織る工程を分業する約200の工場と職人の技術[3]。品質基準の策定、商標登録、認定・検査、ブランドマニュアルの運営[4][5][8]。JAPANブランド育成支援事業の補助金に加え、商工会議所や行政から募った資金[22][23]。認定タグの払出収益という自主財源[7]。約150社の組合員の合意形成[22]。
- ③ 共同活動での担当
- 12項目の品質基準と「5秒ルール」の策定、地域団体商標の登録、認定マークと織りネームの運用ルール、市場品の抜き取り検査、タオルソムリエなどの資格制度、組合員各社への浸透を担った[4][5][7][8]。
- ⑤ 確認できた成果
- 生産数量が2009年の9,381トンを底に4年連続で増え、2013年は11,146トン(2009年比18.8%増)[7]
- 認定タグ等の払出枚数が2006年度の6,200枚から2013年度の5,442万枚に増えた[7]
- 認知度が2004年の36.6%から2012年の71.0%、2014年の76.9%に上がった(組合調査)[23][26]
- 2019年度の知財功労賞(経済産業大臣表彰)、2025年の内閣総理大臣感謝状を受けた[8][9][10]
- 一方、2025年の生産数量は6,535トン、組合員は2026年4月時点で68社に減っている[1]
- ⑤ 今後の目標・期待
- 「第2フェーズ」として、マスターブランドの下で各メーカーのブランドの認知向上・育成を進める[12]
- 「チーム今治タオル」として産地全体の未来図を描き、染色設備の共同化(染色パーク構想)を進める[18]
- 労働力不足に対し、技術や品質を損なわずに省力化・効率化を図る[1]
- 海外展開(今治市は、軟水と硬水の違いや商慣習の違いがハードルになり進んでいないと述べている)[18][21]
B株式会社サムライ(SAMURAI) 中小企業・東京都 ・ 公式サイト
クリエイティブディレクターの佐藤可士和氏が博報堂を経て2000年に設立したクリエイティブスタジオ[17]。国立新美術館のシンボルマーク、ユニクロ・楽天グループ・セブン-イレブン・ジャパンのブランドクリエイティブディレクションなどを手がける[17]。本事例の契約主体・報酬・契約期間は公開されていない。
- 役割
- ブランディング・プロデューサー(コンセプト、ロゴ、商品、店舗)
- ① ニーズ・シーズ
- 佐藤氏側の目的は公開情報で明示されていません。組合によると、佐藤氏は当時、行政に関わる仕事を受けておらず一度は要請を断りましたが、持ち帰った今治タオルを実際に使い、その風合いと吸水性に事業成功の可能性を感じて引き受けたとされています[22]。佐藤氏は「こんなにいいモノがあるなら、ブランディングは必ずできる!」と語り[28]、SAMURAIはこの仕事を「デザインの力で地方創生を実現させた成功事例」と位置づけています[16]。
- ② 提供リソース
- ブランド戦略のトータルプロデュース。コンセプト「安心・安全・高品質」、ロゴマーク、白いタオルというキープロダクトの設定、南青山店と本店・今治タオルLABの空間設計、ブランドムービー[16][26][29]。知名度によるパブリシティ(2007年の東京での発表)[22]。
- ③ 共同活動での担当
- コンセプトの設定、100案からのロゴマーク制作、白いタオルの提案、2007年の東京での発表、南青山店・本店・LABのプロデュース、2021年の「ふわり」監修を担った[11][16][22][26]。
- ⑤ 確認できた成果
- 今治タオルはSAMURAIの代表的な仕事として紹介され、本店はJCD Design Award 2017「BEST100」を受賞した[16][17]
- 2021年の国立新美術館「佐藤可士和展」で今治タオルのブランディングが展示され、組合が協力した[35]
- ⑤ 今後の目標・期待
- 「シャンパーニュ地方にいろんなシャトーがあるように今治にもいろんなメーカーがある。メーカーを際立たせたい」(2018年)[27]
- 青山や代官山にタオル専門店が集まる「タオルストリート」ができること(2017年)[25]
4共同活動③
佐藤氏はブランドの本質的価値を「安心・安全・高品質」と定義し、当時高まっていた食の安全への関心を身体に触れるタオルに置き換えて、品質保証のアイコンとなるロゴマークを制作し、装飾を排した白いタオルをキープロダクトに据えました[16]。白いタオルは柄を競ってきた産地の想定に反するものでしたが、組合内のコンペで製造企業が選ばれ、定番商品になっています[22]。2007年2月、東京・青山で佐藤氏自身がロゴマークの完成を発表し、プロジェクトの旗揚げを宣言しました[7][22]。
組合側は2007年に11項目(現在12項目)の品質基準を策定しました。日本タオル検査協会の基準(60秒)より厳しい、タオル片を水に浮かべて5秒以内に沈み始める「5秒ルール」が代表です[5][8]。同年7月6日に地域団体商標「今治タオル」を登録し、基準に合格した商品だけに認定マークを付ける仕組みを作っています[4]。初期は各社の織りネームの縫い付け位置を制限してロゴを際立たせ、認定マークの裏面に4桁の企業番号を記して製造者をたどれるようにしました[8][9]。2010年にはブランドマニュアルを策定し[8]、安売りの広告に「今治タオル」の文言やマークを使わないよう求めています[6]。市場の認定商品を組合が定期的に購入して検査する仕組みもあります[7]。
人材面では、2007年にタオルソムリエ資格試験、2008年にタオルマイスター制度を導入しています[7][20]。販売面では、2012年6月に県外初のオフィシャルショップ「今治タオル 南青山店」を開き、物件探しから設計、内装、商品パッケージまで佐藤氏がプロデュースしました[7][26]。2017年4月には本店をSAMURAIの設計で刷新し、「今治タオルLAB」を併設しています[16][29]。
その後は「第2フェーズ」として、マスターブランドの下で各メーカーのブランドを育てる段階に移っています。2018年に組合員4社によるコラボ商品の第1弾[27]、2021年に産地ブランド「ふわり」の佐藤氏監修によるリブランディング[11]、2023年3月から南青山店でのメーカーポップアップ、2024年5月からデジタルアートギャラリーと続いています[12]。
5成果物と成果④⑤
成果物
- ブランドロゴマークと「今治タオルブランド」認定マーク(2007年2月発表)、地域団体商標「今治タオル」(2007年7月6日登録、登録第5060813号)[4][7]
- 12項目の品質基準(「5秒ルール」など)と今治タオルブランドマニュアル(2010年策定)[5][8]
- キープロダクト「白いタオル」[9][16]
- タオルソムリエ資格試験(2007年〜。2026年9月の第21回は294名受験・141名合格)、タオルマイスター制度(2008年)、社内検定(2011年認定)[7][14][20]
- 「今治タオル 南青山店」(2012年6月)、本店の刷新と「今治タオルLAB」(2017年4月)[7][26][29]
- 産地ブランド「ふわり」のリブランディング(2021年)、メーカーポップアップ(2023年〜)、デジタルアートギャラリー(2024年)[11][12]
生産数量と組合員数は組合調べです。2013年までの数値は2014年の組合資料[7]、2025年の生産数量と2026年の組合員数は組合サイト[1]によります。2014〜2024年の年次の生産数量は組合サイトに掲載がなく、報道の数値(2018年頃約1万2,000トン[30]、2020年時点約1万1,000トン[32]、2024年約6,800トン[31])で補っています。認知度は組合の調査で、調査方法は未確認です[23][26]。平川論文が書籍から引く「売上高は2006年の6千万円から2013年に通販を含め約6.5億円」[23]は、何の売上を指すか確認できないため本文では使っていません。
未確認・留意点- 佐藤氏側の契約主体(株式会社サムライか個人か)、報酬、契約期間は公開されていません。本ページでは事務所を組織として記載し、個人名を本文で示しています
- 組合員数は出典で異なります。2013年は組合資料で117社[7]、平川論文で121社[23]。プロジェクト開始時は西川論文で約150社[22]です。2018年の106社[15]、2021年の102社[11]から2024年2月の79社[19]、2026年9月の68社[2]へ減った理由は公開情報で確認できていません
- 本店の刷新時期は、特許庁資料で2017年3月[9]、取材記事で2017年4月27日[29]と異なります
- 南青山店の運営は、組合とは別法人の株式会社今治繊維リソースセンターです[26]
- 2019年6月のNHK番組で報じられた技能実習生の労働問題は組合員でない企業のものでしたが、不買を呼びかける投稿が広がり、組合は社会的責任を表明しました[33]
- 佐藤氏の2021年の「ふわり」監修以降の新たな関与は確認できていません。組合の理事長挨拶は2026年時点でも佐藤氏の指導に言及しています[1]
- 内閣府の資料[7]は、「選択する未来」委員会 成長・発展ワーキング・グループ(2014年7月30日)に佐藤可士和委員の提出資料として配布された組合の文書です
- ITmediaの記事[25]は2ページ目以降が会員限定で、未確認です。SAMURAIの公式サイト[16][17]はJavaScriptで表示されるため、サイトのCMSが返すデータで内容を確認しています
6組み合わせの意味編集部の考察
考察この組み合わせの要点は、「品質の担保」と「伝え方」を分担した点にあると考えられます。組合は、検査基準・認定・商標・マニュアルという、約100社の集合体でなければ作れない仕組みを担い[4][5][7]、佐藤氏は「安心・安全・高品質」というコンセプトと、ロゴ・白いタオル・店舗という一貫した表現を担いました[16]。SAMURAIはこの仕事を、「100社を超えるメーカーを擁する産地との合意形成」を含む総合的なクリエイティブディレクションと位置づけています[16]。
もう一つの要点は、外部の視点が産地の常識を問い直したことです。白いタオルは柄を競ってきた産地にとって想定外でしたが[22]、組合側も織りネームの位置制限や企業番号によるトレーサビリティを受け入れ、各社の個性より先にマスターブランドを優先しました[8][9]。認知度は2004年の36.6%から2012年の71.0%に上がり[23]、生産数量は2009年の9,381トンから2013年の11,146トンへ回復しています[7]。認定タグの払出収益が自主財源になり、補助金の後も施策が続いた点も見逃せないとみられます[7]。
同時に、産地ブランドが万能ではないこともうかがえます。西川論文は、認定の手間が小規模企業の負担となり、ブランドの果実を得る企業とそうでない企業の格差が露呈したと指摘しています[22]。生産数量は2025年に6,535トンと2009年の底を下回り、組合員は68社です[1]。ブランドの確立と産地の規模の維持は、別の課題と推察できます。
7他社への応用編集部の考察
考察この型は、多数の中小企業が集まる産地や業界団体が、外部のクリエイターと組んで共通ブランドを作る場合に応用できると考えられます。条件の第一は、ブランドの約束を裏付ける客観的な品質基準と認定・検査の仕組みを、団体側が持つことです。本事例では12項目の基準と市場品の抜き取り検査が、マークの信用を支えています[5][7]。第二は、各社の個性より先にマスターブランドを立てる順序に、参加企業が合意することです。佐藤氏は「各社それぞれが特色を出すよりも先に、『今治』というものを前面に出すべきだ」と求めてきたと述べています[25]。第三は、補助金が切れた後の自主財源です[7]。
留意点として、共通ブランドは参加企業の間に格差を生みうること[22]、ブランド外の企業の不祥事でも産地の名で批判を受けうること(2019年のNHK報道では組合員でない企業の問題で組合が社会的責任を表明しています[33])、ブランドの確立が産地の生産量や企業数の維持を保証しないこと[1][31]が挙げられます。本事例が10年以上たってから「第2フェーズ」に移ったように[12][27]、各社のブランドを育てる段階を最初から設計しておくことが望ましいでしょう。
成立に必要な条件
- 団体側が、ブランドの約束を裏付ける客観的な品質基準と、認定・抜き取り検査・商標の運営を持つこと[4][5][7]
- 各社の個性より先に共通ブランドを立てる順序に参加企業が合意し、織りネームの位置や安売り広告の制限を受け入れること[6][8][25]
- 補助金の期間後も続く自主財源(本事例は認定タグの払出収益)を設計すること[7]
- 外部クリエイターがコンセプトからロゴ・商品・店舗まで一貫して関わり、産地の常識(本事例では白いタオル)を問い直せること[16][22]
- マスターブランド確立後に各社のブランドを育てる「第2フェーズ」を見据え、小規模企業が取り残されないようにすること[12][22][27]