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共創事例
気流制御でアクアポニックス農場の温度ムラをなくし、収量と電力を改善する
富士工業株式会社(中堅企業) × 株式会社アクポニ(スタートアップ)
日本神奈川県相模原市PoC枠組み 神奈川県 ビジネスアクセラレーターかながわ(BAK2023)情報確認日 2026年10月3日
レンジフードメーカーの富士工業が持つ気流制御技術を、アクアポニックス(魚の養殖と野菜の水耕栽培を組み合わせた循環型栽培)を手がけるスタートアップ、アクポニの栽培施設に適用した実証です。神奈川県のベンチャー支援プログラムBAK2023で採択され、施設内の温度ムラをなくすことで、収量の増加と空調電力の削減を同時に確認しています[1][3]。
1共創の構造図解:共創プロジェクトの形
Before起点
A富士工業
① ニーズ・シーズ気流制御技術を農業など新分野へ展開し、新事業を創出したい
② 提供リソース気流制御技術、還流ファン、熱流体解析、温度監視に基づく空調制御の設計
Bアクポニ
① ニーズ・シーズ施設内の温度ムラによる生育のばらつきと、空調エネルギーと収量が比例しない課題を解決したい
② 提供リソースアクアポニックス設備3基と栽培運用、栽培アプリ、資源循環の測定・評価
During共創
③ 共同活動廃校の教室に設備を置き、気流制御の有無で収量・電力・水・窒素・CO2を比較(2023年10月〜2024年3月)
④ 成果物収量22%増・電力76%減の検証結果、資源循環評価モデル
After成果
A富士工業の成果
⑤ 獲得成果確認できた成果収量22%増・電力76%減の実証データ。農場からの問い合わせ、登壇依頼今後の目標・期待農業分野への空気環境ソリューション展開(売上・受注は未公表)
Bアクポニの成果
⑤ 獲得成果確認できた成果収量・電力の比較データ、資源循環評価モデル、栽培アプリの新機能として提供開始今後の目標・期待2027年までに全国200農園(目標)。資源循環の可視化・最適化
プロジェクト全体の段階
探索PoC共同開発事業化スケール
①ニーズ・シーズ ②提供リソース ③共同活動 ④成果物 ⑤獲得成果。図の内容は本文と同じ出典に基づきます。
段階:PoC 2023年10月から2024年3月の実証を完了し、結果を公表
[1][3]。富士工業は品種を変えて実証を継続中と記載しています(2025年8月公開、2026年6月更新の記事)
[7]。実証で得た数理モデルは、アクポニの栽培アプリの新機能として2025年11月に提供開始が発表されています
[11]。一方、気流制御そのものの製品化・販売は公開情報で確認できません。
2背景と各組織の狙い
富士工業は、レンジフードを中心とする厨房・空気環境製品のメーカーです[12]。BAK2023では、大企業が自社の技術やテーマを提示し、スタートアップが応募する「大企業提示テーマ型」で参加し、「様々な『空気』を軸とした社会に本物の快適さを提供」をテーマに掲げました[10][14]。BAK2023には327件の応募があり15件が採択され[6]、富士工業は2件のプロジェクトが同時に採択されています[4]。
アクポニは、魚の養殖と野菜の水耕栽培を組み合わせ、魚の排せつ物を野菜の養分として循環させるアクアポニックスのシステムと、生産管理アプリを提供しています[1][2]。閉鎖型の施設では、エリアによる生育のばらつきと、空調エネルギーと収量が比例しない「アンマッチ」に直面しており、空気環境が影響しているのではないかという仮説を持っていました[7]。
富士工業側は「これまで類似の実証が無く、空気環境の改善が肥料の利用効率化、さらには脱炭素化にどのように影響を及ぼすかは明らかではありませんでした」と述べています[1]。つまり、富士工業には技術はあっても農業での効果を示すデータがなく、アクポニには課題と栽培の現場はあっても空気を扱う技術がない、という状態から共創が始まりました。
3提供資源と役割
A富士工業株式会社 中堅企業・神奈川県相模原市 ・ 公式サイト
レンジフードなど厨房・空気環境製品のメーカー(ブランド名FUJIOH)。創立1941年、国内法人の従業員936名(2026年3月時点)、売上高297億円[12]。神奈川県の資料ではBAKの「大企業」側として参加[3]。
- 役割
- 技術提供(気流制御の設計・解析)
- ① ニーズ・シーズ
- 気流制御(空気循環の最適化)の技術を、住宅・厨房以外の分野へ広げたいという狙いがありました。「空気環境は農業分野でもマネタイズできる可能性がある」という視点を持ち[7]、ブランドビジョンの実現に向けた新事業創出として、BAK2023に自社技術を提示するテーマで参加しました[4]。
- ② 提供リソース
- 気流制御技術と、空気環境の測定機器・ノウハウ[2][3]。実証では、業務用エアー搬送ファン(還流ファン)、流体シミュレーション(熱流体解析)、多点温度監視に基づくエアコン運転制御の設計を提供しました[5][7]。募集時には、測定機器・検証施設、流体解析、社内試作、既存顧客ネットワーク、R&Dメンバー4名を提供可能な資源として提示していました[14]。
- ③ 共同活動での担当
- 「温度環境のバラツキが収量に影響しているのでは」という仮説に対して気流制御を提案・設計し、エアコンと還流ファン・センサーを設置。熱流体解析で電力を評価しました[5][7]。
- ⑤ 確認できた成果
- 農業分野での実証データ(収量約22%増、エアコン電力約76%減)を獲得[1][5]
- 知事の定例会見で紹介され[9]、近畿地方の大規模施設農場からの問い合わせや、複数の自治体・企業からのセミナー登壇依頼につながった[7]
- 実証をホワイトペーパーと事例記事として発信[7][16]
- ⑤ 今後の目標・期待
- 「農業環境における空気環境のイノベーションが起こせるのではないか」(イノベーション推進部・丸川氏)[1]
- 「今後のスマートアグリ分野における重要な布石」と位置づけ[7]
B株式会社アクポニ スタートアップ・神奈川県横浜市 ・ 公式サイト
アクアポニックスのシステム提供と生産管理アプリを手がけるスタートアップ。2014年設立、横浜市中区[13]。
- 役割
- 採択企業(栽培・養殖の運用、資源循環の評価、アプリへの実装)
- ① ニーズ・シーズ
- 同じ施設内でもエリアによって野菜の生育がばらつき、空調エネルギーの使用量と収量が比例しない課題を抱えていました[7]。業界全体では肥料・電気代の上昇と脱炭素への対応が求められており[1]、アクアポニックスを産業として定着させることを狙っています[1]。
- ② 提供リソース
- 循環型栽培システム「アクアポニックス」[2][3]と、生産管理用の「アクポニ栽培アプリ」(2022年リリース)[1]。実証にはシステム3基(野菜ベッド1m・2m・3m、計414株、ティラピア9匹)を提供し[1][3]、栽培運用と、収量・窒素・CO2・水・電力の測定、物質収支の数理モデル開発を担いました[1]。
- ③ 共同活動での担当
- 実証用のアクアポニックス設備を設置・運用し、収量と窒素・CO2・水・電力を測定。物質収支の数理モデルを開発しました[1][3]。
- ⑤ 確認できた成果
- 気流制御の有無による収量・電力の比較データ[1]
- 窒素・CO2・水の物質収支を評価する「資源循環評価モデル」を開発[1]
- 2025年11月、栽培アプリの新機能「アクポニ資源循環可視化レポート」の提供開始を発表(BAK実証の成果を活用)[11]
- 自社の研究開発ページで富士工業を共同研究先として掲載[15]
- ⑤ 今後の目標・期待
- 2027年までに全国200農園への展開(アクポニの目標)[8]
- 野菜耕作面積の20%をアクアポニックス化した場合、肥料生産由来のCO2を年約25万t削減できるとの試算[1][8]
4共同活動③
出発点は仮説の交差でした。アクポニが抱いていた「空気環境が農業に影響を与えているのではないか」という仮説と、富士工業の「空気環境は農業分野でもマネタイズできる可能性がある」という視点が交わり、「温度環境のバラツキが収量に影響しているのでは」という共通の仮説が生まれました[7]。
実証は、元県立新磯高校(相模原市南区)の教室で、2023年10月から2024年3月まで約5か月間行われました[1][2][3][7]。教室には追加の断熱工事を施し、エアコンと送風装置を設置[7]。アクアポニックス設備の周辺にエアコン、還流ファン、センサーを配置し、多点温度監視システムには株式会社マクニカが協力しました[7][8]。
検証では「エアコンとセンシング部の適正化・連動」と「還流制御による温度の一様化」を行い、気流制御あり・なしの条件で、収量、電力、水、窒素、CO2を比較しました[1][3]。富士工業が気流・温度の制御と解析を、アクポニが栽培・養殖と物質収支の評価を担当し、神奈川県とeiiconが支援と発信を行いました[1][5][7]。
2024年2月21日の成果発表会「KANAGAWA INNOVATION DAYS Meetup Fes 2024」で発表し[5]、同年4月16日には神奈川県の記者発表と知事会見、両社の支援機関のリリースで結果が公表されました[1][2][3][9]。実証で育てたリーフレタスは地域食堂、畜産飼料、イベントで提供されました[5]。
5成果物と成果④⑤
成果物
- リーフレタス1株あたり平均収量が約22%増(37g→45g)という検証結果[1][3]。野菜ベッド別では2mが33.2g→41.3g(24.4%増)、3mが40.8g→49.4g(21.1%増)[1]
- エアコン電力の約76%減(1,614kW→385kW)という検証結果。「なし」側は実測値を基に熱流体解析で算出した値、「あり」側はエアコンと還流ファンの実測の合算[1][5]
- 窒素・CO2・水の物質収支を評価する数理モデル「資源循環評価モデル」[1]
- 富士工業のホワイトペーパー「気流制御で実現する農業環境における収量・コスト改善」[16]
数値を読むときの注意点です。電力76%減は、気流制御「なし」の条件を実測値から熱流体解析で算出して比較した値であり、両条件とも実測で比べたものではありません[1][5]。また、同じリリースにある窒素肥料99%削減・水66%削減は、アクアポニックス自体の循環によるもので、気流制御の効果ではありません[1]。
未確認・留意点- 実証面積は、アクポニと神奈川県が「100平方メートル」[1][3]、eiiconが「15㎡」[2]と、出典間で食い違っています
- 本件への支援金の実額、費用分担、契約形態、知財の帰属は公開されていません
- 気流制御の商用提供の有無、導入先、売上は公開情報で確認できません。導入コストと回収期間は知事会見で質問が出ましたが、回答はありませんでした[9]
- 栽培アプリの新機能[11]のリリースは、BAK実証の成果を活かした旨の記載のみで、富士工業の名前は挙げていません。当初の搭載予定は2024年7月でした[1][3]
6組み合わせの意味編集部の考察
考察この組み合わせの要点は、「技術の価値を測る場」と「課題の原因に効く技術」が、互いの不足を埋めた点にあると考えられます。アクポニは収量と電力の不一致という課題を持ちながら、その原因である空気の流れを制御する手段を持っていませんでした[7]。富士工業は気流制御の技術を持ちながら、農業分野での効果は「類似の実証が無く」不明でした[1]。アクポニの栽培設備と測定の体制(収量、窒素、CO2、水、電力)があったからこそ、気流制御の価値を「電力あたりの収量」という農業側の指標で示せたと推察できます。
もう一つの要点として、出発点が「技術の売り込み」ではなく「仮説の交差」だったことが挙げられます[7]。富士工業が提示したのは具体的な製品ではなく「空気を軸に快適さを提供する」という技術テーマであり[10]、アクポニ側の仮説と結び付いて、共通の検証課題が設定されました。同じ技術でも、課題の持ち主と仮説を共有できなければ、実証の設計は難しいと考えられます。
第三者の存在も効いていたとみられます。神奈川県のプログラムが出会いの場と実証場所、支援金(通常枠で最大500万円)を提供し[3][6]、センサーはマクニカが協力しました[7]。初期の費用と信用を下げる仕組みが、中堅メーカーとスタートアップの短期の実証を可能にしたと推察できます。
7他社への応用編集部の考察
考察この型は、空調・照明・水処理・建築設備などの「環境制御」技術を持つメーカーが、植物工場、陸上養殖、畜産、倉庫、食品工場など「環境条件が成果に直結する現場」を持つ事業者と組む場合に応用できると考えられます。メーカー側は自社技術の効果を現場の指標で示すデータを、現場側は自前では手が届かない原因への対策を、それぞれ得られる可能性があります。
ただし、今回の実証は完全閉鎖型・LED型の施設で行われました[1]。空調が環境を支配する施設だからこそ、気流制御の効果が収量と電力に表れやすかったと考えられます。露地栽培や自然光の温室では、効果の出方は異なる可能性があります。
また、実証の成功と事業化は、別の段階として捉えるのが妥当と考えられます。本件では公開情報上、アクポニ側のアプリ機能化が先行し[11]、気流制御そのものの商品化は確認できていません。実証を設計する段階で、誰が何を売るのか、データと知財をどう扱うのかを話し合っておくことが、次の段階に進む条件になると推察できます。
成立に必要な条件
- 現場側が、収量や電力などの成果指標を比較できる測定体制を持っていること(比較実験が成立する)
- 技術側が、対策なしの条件を解析で再現できること(本件の電力削減率は解析値を含む)[1][5]
- 実証用の場所と初期費用を抑える仕組み(自治体プログラムの支援金、廃校などの施設)があること[3][6]
- 実証後の事業モデル(誰が何を売るか、データ・知財の扱い)を事前に話し合っておくこと
- 空調が環境を支配する閉鎖型施設であること。開放系の現場では効果の検証を別途行う必要がある