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共創事例
かつお一本釣り漁船の操業日誌をデータ化し、漁労長の判断をAIで補助する
有限会社浅野水産(中小企業) × 株式会社FACTORIUM(スタートアップ)
日本宮崎県日南市PoC枠組み eiicon(現AUBA)でのマッチング情報確認日 2026年10月3日
近海かつお一本釣り漁船「第五清龍丸」を営む浅野水産は、年間の漁獲量と経営が漁労長の技術に依存しており、その引退が迫っていました[1]。eiiconを通じて出会ったFACTORIUMと、座標と釣果が記録された紙の操業日誌をデータベース化し、気象・海況データと組み合わせて、漁師の意思決定を補助するモデルの構築を目指している事例です[1]。
1共創の構造図解:共創プロジェクトの形
Before起点
A浅野水産
① ニーズ・シーズ引退が迫る漁労長の技術(漁場選定の勘)に経営が依存。技術を継承したい
② 提供リソース紙の操業日誌・水揚げ記録、現役の漁船と漁師の知見
BFACTORIUM
① ニーズ・シーズ漁師の勘を構造化する分析モデルを作り、水産業へ展開したい
② 提供リソースデータ分析技術、紙の日誌をデータ化する工程の設計
During共創
③ 共同活動紙の操業日誌をデータベース化し、気象・海況データと組み合わせて漁場選定の判断を補助するモデルを構築
④ 成果物操業日誌のデータベース、漁場選定の判断補助モデル(計画段階)
After成果
A浅野水産の成果
⑤ 獲得成果確認できた成果FACTORIUMと契約、操業日誌のデータベース化に着手(効果の数値は未公表)今後の目標・期待漁労長の代替わり後も漁獲を維持。経験の浅い漁師でも採算が取れる操業
BFACTORIUMの成果
⑤ 獲得成果確認できた成果漁業の実データを使う案件を獲得(効果は未公表)今後の目標・期待水産業全体への展開、水産テックベンチャーの立ち上げ
プロジェクト全体の段階
探索PoC共同開発事業化スケール
①ニーズ・シーズ ②提供リソース ③共同活動 ④成果物 ⑤獲得成果。図の内容は本文と同じ出典に基づきます。
段階:PoC 2019年5月の時点で操業日誌のデータベース化に着手し、初期解析は同年8月、MVPは翌年の漁期に動かす計画でした
[1]。その後、2021年の記事の地の文で「AI化を実現」
[5]、2024年のリリースで「AIで予測するプロジェクトも進行」
[6]との記述がありますが、解析の精度、漁獲への効果、製品化は公開情報で確認できません。
2背景と各組織の狙い
浅野水産は、300年以上の歴史を持つ宮崎県日南市のかつお一本釣り漁業の中で、県内有数の漁獲実績を持つ漁業者です[1]。一本釣りの漁獲は、どの漁場に向かうかを決める漁労長の判断に大きく左右され、浅野水産の漁労長は数年後に引退を控えていました[1]。「年齢は待ってくれない」という時間の制約が、課題を切実なものにしていました[1]。
浅野氏がeiiconを知ったきっかけは、eiicon代表が出演したテレビ番組でした[1]。登録後に問い合わせてきた企業の多くは一般的な提案でしたが、FACTORIUMは漁業の機材やデータを事前に調べ、的を絞った質問を重ねたことで「漁業と共創したいという熱意が感じられた」と浅野氏は述べています[1]。FACTORIUM側の久米村氏も、浅野水産を「課題感とビジョンと思いや熱意が明確だった」と評価しています[1]。
FACTORIUMにとっては、漁業の実データを使って分析モデルを作り、その成果を水産業全体に展開するという事業の入口でもありました[1]。
3提供資源と役割
A有限会社浅野水産 中小企業・宮崎県日南市 ・ 公式サイト
近海かつお一本釣り漁船「第五清龍丸」(119トン、船員23名)を操業[1][3]。2018年の漁獲実績は100トン以上の漁船クラスで宮崎県内1位・全国8位[1]。年間漁獲量約1,000トン、漁獲高約3億5,000万円(2021年時点)[5]。
- 役割
- 課題の持ち主。データと現場の提供
- ① ニーズ・シーズ
- 漁労長(船頭)の引退が迫っており、年間の漁獲量と経営がその技術に依存していました。「漁労長が代替わりし、現在ほどの漁獲高が見込め無くなれば、途端に経営が苦しくなるというリスクがあります。しかし、年齢は待ってくれない」[1]。漁場を選ぶ勘と経験をどう継承するかが課題でした[1]。
- ② 提供リソース
- 座標と釣果が記録された紙の航海日誌・操業日誌、水揚げ量の情報[1]。操業中の漁船という現場と、漁師の知見[1]。
- ③ 共同活動での担当
- 紙の操業日誌と水揚げ情報を提供し、漁労長の判断の言語化に協力。宮崎県水産試験場からのデータ提供も得ました[1]。
- ⑤ 確認できた成果
- FACTORIUMと契約を締結し、操業日誌のデータベース化に着手[1]
- 自社の沿革に、2019年「漁師の勘AI化プロジェクト」開始、2020年「DX事業がIndustry Challenge賞受賞」と記載(授与主体は記載なし)[3]
- ⑤ 今後の目標・期待
- 漁労長の代替わり後も漁獲を維持できる操業[1]
- 経験の浅い漁師でも採算が取れるようにする[4]
B株式会社FACTORIUM スタートアップ・東京都千代田区 ・ 公式サイト
2018年8月設立のデータ分析スタートアップ[7]。代表の久米村隼人氏はJAXA J-SPARCプロデューサーの肩書を持つ[8]。
- 役割
- データ整備・分析・モデル構築
- ① ニーズ・シーズ
- ベテラン漁師の勘を構造化し、意思決定を補助するモデルを作ること[1]。経営成績を上げる仕組みを実証したうえで水産業全体へ展開し、浅野水産とともに水産テックベンチャーを立ち上げる構想を持っていました[1]。
- ② 提供リソース
- データ分析技術と、紙やPDFの日誌をクラウドソーシングでデータベース化する工程[1]。気象配置図、水温分布、潮流、海面高、船の計器データを組み合わせて分析する手法[1]。
- ③ 共同活動での担当
- 紙の日誌をクラウドソーシングでデータベース化し、気象・海況データと組み合わせて分析。意思決定を補助するモデルの構築を担当[1]。
- ⑤ 確認できた成果
- 浅野水産との契約を獲得し、漁業の実データを使ったプロジェクトに着手[1]
- ⑤ 今後の目標・期待
- 経営成績を上げる仕組みの実証と、水産業全体への展開[1]
- 浅野水産との水産テックベンチャーの立ち上げ[1]
4共同活動③
出会いはeiiconでした。2019年1月に家業に戻った浅野龍昇氏(当時、経営企画マネージャー)は、eiiconに登録すると10数社から問い合わせを受けました[1]。その中でFACTORIUMだけが「漁業でどういう機材やデータが使われているのかを事前にリサーチされていて、二通目のメールからはかなり的を絞った質問内容」を送ってきたといいます[1]。約3か月の対話を経て、FACTORIUMと契約を締結しました[1]。
プロジェクトの目標は「ベテラン漁師の勘を構造化しデータ分析を行うことにより、漁師の意思決定を補助するモデルを構築する」ことと設定されました[1]。最初の工程は、紙の操業日誌や水揚げ量の情報(紙やPDF)をクラウドソーシングでデータベース化することです[1]。そのうえで、気象配置図、水温分布、潮流、海面高、船の計器データを組み合わせて分析し、宮崎県水産試験場もデータを提供しました[1]。
2019年5月の時点では、同年8月下旬に初期の解析結果を受け取り、翌年の漁期に初期のMVPを動かす計画でした[1]。これらが計画どおり実施されたかは、公開情報で確認できていません。
5成果物と成果④⑤
成果物
- 操業日誌・水揚げ情報のデータベース(着手を確認)[1]
- 漁師の意思決定を補助するモデルと初期のMVP(2019年5月時点の計画)[1]
未確認・留意点- 解析結果、MVPの完成、精度、漁獲への効果は公開情報で確認できません。「AI化を実現」[5]は記事の地の文であり、根拠となる数値はありません
- 2020年以降もFACTORIUMが関与しているかは不明です。2024年のソニー銀行のリリース[6]はAIプロジェクトの進行に触れていますが、相手企業名は挙げていません
- eiiconへの登録時期について、2020年10月の記事[9]は「今年の1月ごろ」と述べており、2019年5月に契約済みとする[1][2]と合いません。本ページは[1]の記述(2019年1月に家業に戻った後すぐ登録)を採用しています
- 費用負担、契約形態、データと知財の扱いは公開されていません
6組み合わせの意味編集部の考察
考察この組み合わせの中心には、浅野水産が持つ「紙の操業日誌」という、未加工だが希少なデータがあったと考えられます。座標と釣果が長年記録された日誌は[1]、漁場選定の判断とその結果を対にして残した実績データであり、スタートアップが自力で集めることは難しいとみられます。一方、浅野水産の側では、日誌は紙のまま分析に使われていなかったと推察できます。
FACTORIUMが提供した価値は、高度な分析技術そのものよりも、「紙の日誌をどうデータにするか」という工程の設計と、気象・海況データとの統合[1]にあったと考えられます。暗黙知のAI化では、モデルを作る前に判断の材料を記録に起こす地道な作業が欠かせず、この最初の工程を引き受けられる相手だったことが、契約に至った理由の一つと推察できます。
相手の選び方にも特徴があります。浅野氏は10数社の中から、技術の優劣ではなく「事前に漁業を調べ、的を絞った質問をしてきたか」でFACTORIUMを選びました[1]。課題の持ち主にとっては、現場を理解しようとする姿勢が、技術の説明より信頼の根拠になったとみられます。宮崎県水産試験場のデータ提供[1]も、2社だけでは足りない海況の情報を補ったと考えられます。
7他社への応用編集部の考察
考察この型は、熟練者の判断に経営が依存している中小の事業者(漁業、農業、製造業の職人技、建設の現場判断など)が、データ分析のスタートアップと組む場合に応用できると考えられます。応用の第一歩としては、判断の「結果」が何らかの形で記録されているかを確かめることが挙げられます。日誌、伝票、作業記録など、紙のままでも記録があれば出発点になりえます。
ただし、本事例からは、暗黙知のAI化は成果が出るまでに時間がかかることがうかがえます。漁業では効果の検証が漁期単位になり、海況の変動も大きいため、1〜2年で効果を数値で示すのは容易ではないと考えられます。本事例でも、着手から数年を経て、効果の数値は公開されていません。熟練者が現役のうちに判断を言語化し、複数年にわたって検証を続ける体制を整えることが望ましいでしょう。
また、スタートアップ側の事業の入口として始まる共創では、課題の持ち主である中小事業者が、データの所有や利用の範囲、成果の帰属をどう取り決めるかが、後の展開を左右する可能性があります。本事例ではこれらは公開されていません。
成立に必要な条件
- 熟練者の判断と結果が、紙でもよいので記録されていること(日誌、伝票、作業記録)
- 熟練者が現役のうちに、判断の言語化に協力できる時間があること
- 相手の選定基準を「技術の優劣」ではなく「現場を理解しようとする姿勢」に置くこと[1]
- 効果の検証が季節や年単位になる前提で、複数年の体制と費用を見込むこと
- データの所有・利用範囲と成果の帰属を、着手前に取り決めること
- 公的な試験研究機関など、2社だけでは足りないデータを補う協力先があること[1]