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共創事例
自動車大手がスタートアップと折半で電池工場を建て、相手の資金難で単独で引き取る
ボルボ・カーズ(Volvo Cars、Volvo Car AB)(大手企業) × Northvolt(Northvolt AB)(スタートアップ)
スウェーデンヨーテボリ共同開発情報確認日 2026年10月12日
電動化を急ぐボルボ・カーズと、2016年設立のスウェーデンの電池スタートアップNorthvoltの共創です。2021年6月に折半出資の合弁を発表し、ヨーテボリに研究開発センターと年産最大50GWh・3,000人規模の電池工場を約300億クローナで建設する計画でした[1][4][5]。2023年に着工しましたが、Northvoltが合弁への出資義務を果たせず、ボルボは2024年10月に償還権を行使して持分を引き取り、2025年7月に完全子会社化しています[11][20][33]。Northvoltは2025年3月に破産し、建物がほぼ完成した工場は生産設備が入らないまま、2026年1月から操業を休止しています[21][24][29]。
1共創の構造図解:共創プロジェクトの形
Before起点
Aボルボ・カーズ
① ニーズ・シーズ2030年の全車EV化に向け、自社仕様の電池セルを欧州で確保し、開発力を取り込みたい
② 提供リソース出資約30億クローナ、工場に隣接する用地、年50万台分の需要、自動車側の電池知見
BNorthvolt
① ニーズ・シーズ欧州で複数の工場を建てるため、大手自動車メーカーの需要と資金を確保したい
② 提供リソースセル技術と研究拠点の知見、既存工場からの供給計画、折半の出資義務
During共創
③ 共同活動折半の合弁で研究開発センターと50GWhの工場を建設。相手の出資不履行で大手が償還権を行使して引き取り、操業を休止
④ 成果物合弁会社と研究開発センター(売却済み)、生産設備の入らない電池工場の建物、環境許可
After成果
Aボルボ・カーズの成果
⑤ 獲得成果確認できた成果合弁を単独で引き取り(対価4,000万クローナ)、減損17億クローナ。工場は設備が入らず休止、研究開発部門は売却今後の目標・期待技術パートナーを得てヨーテボリで電池を生産する志は維持(時期は未定)
BNorthvoltの成果
⑤ 獲得成果確認できた成果出資不履行で合弁の持分を手放し、2024年11月に米チャプター11、2025年3月にスウェーデンで破産今後の目標・期待未確認(破産により資産はLytenへ)
プロジェクト全体の段階
探索PoC共同開発事業化スケール
①ニーズ・シーズ ②提供リソース ③共同活動 ④成果物 ⑤獲得成果。図の内容は本文と同じ出典に基づきます。
段階:共同開発 2022年に合弁NOVO Energyを設立してヨーテボリの研究開発センターが稼働し、2023年10月に工場の造成を始めています
[8][9][37]。しかし量産には至らず、Northvoltの出資不履行を受けてボルボ・カーズが2024年10月に持分の引き取りを通告し、2025年7月4日に100%子会社としています
[11][33]。研究開発子会社は2025年7月にボルボ・グループ(トラック)へ売却され
[25][26]、残る工場会社は技術パートナーが見つからないまま2026年1月13日に全75人の解雇と操業休止を発表しています
[29]。2026年7月にボルボのサミュエルソンCEOは「秋のうちに(合意を)できると見込んでいる」(編集部訳)と述べていますが、2026年10月12日時点で新パートナーの発表は確認できていません
[34]。両社の共創としては、研究開発センターと工場建設という共同開発の段階で終わったと判断しています。
2背景と各組織の狙い
ボルボ・カーズは2021年、2030年までに販売を全て電気自動車にする目標を掲げていました。電池の生産は電気自動車のライフサイクルCO2の大きな部分を占めるため、欧州の自社工場の近くで電池を作って環境負荷を下げ、セルの開発を自社の技術能力に取り込むことを狙いました[1][4]。2019年にはCATLとLG化学と長期供給契約を結んでおり[35]、合弁はそれを補う自社仕様のセルの確保策でした。
Northvoltは2016年設立のスタートアップで、2021年6月に27億5,000万ドルの増資を行い、2030年に欧州で150GWh超の生産能力を持つ計画を掲げていました[3]。270億ドル超の受注を得ており[3]、ボルボとの合弁は「欧州での独占的な電池セル生産パートナー」の地位を得るものでした[1][2]。
ヨーテボリ市も誘致に投資し、SVTの調査によれば2024年12月までに計5億4,800万クローナを支出しています。NOVO Energyが月額の使用料で返す契約でした[15]。
3提供資源と役割
Aボルボ・カーズ(Volvo Cars、Volvo Car AB) 大手企業・スウェーデン・ヨーテボリ ・ 公式サイト
1927年創業の自動車メーカー。2010年から中国の浙江吉利控股集団(Geely)の傘下にあり[1]、ストックホルム証券取引所に上場[6]。2020年の販売台数は66万1,713台、売上高2,628億クローナ、従業員約4万人[1]。2025年は販売71万台、売上高3,573億クローナ、平均従業員4万2,600人[33]。
- 役割
- 出資、用地、顧客としての需要、自動車側の電池知見
- ① ニーズ・シーズ
- 2030年までに販売を全て電気自動車にする目標を掲げ、欧州での電池セルの供給を確保する必要がありました[1]。電池は電気自動車で最も高い部品であり、ライフサイクルCO2の大きな部分を占めるため、自社仕様のセルを欧州の自社工場の近くで作って環境負荷と調達リスクを下げ、電池の開発を自社の技術能力に取り込むことを狙いました[1][4]。
- ② 提供リソース
- 合弁への出資(2023年8億1,500万クローナ、2024年21億3,600万クローナ)[20]。トシュランダ工場に隣接する55ヘクタールの用地(土地所有会社を2023年に合弁へ譲渡)[8][20]。合弁の唯一の顧客としての需要(50GWhは年約50万台分)[5]。研究開発センターへの自動車側の電池知見と、隣接して建設する電池組立工場[9]。
- ③ 共同活動での担当
- 折半出資者として資金と用地を出し、研究開発センターと工場建設を共同で進めた。Northvoltの出資不履行後は償還権を行使して持分を引き取り、技術パートナーの探索を主導している[9][11][29]。
- ⑤ 確認できた成果
- Northvoltの持分を対価ほぼゼロ(報道。2025年年次報告では4,000万クローナ)で引き取り、2025年7月に完全子会社化した[18][33]
- 2024年第4四半期に合弁株式の減損17億200万クローナを計上し、連結時に負ののれん10億5,400万クローナを利益計上した[19][20]
- 建物がほぼ完成した工場(風雨から保護済み)を保有。研究開発子会社は2025年7月にボルボ・グループへ売却[18][25]
- 電池セルは合弁から調達せず、CATL・LGなど既存の供給元に依存。2026年1月発表のEX60のセルもCATLとLGエナジーソリューションから調達すると報じられている[12][33][36]
- ⑤ 今後の目標・期待
- 「ヨーテボリ地域で電気自動車用の電池を生産する長期的な志は変わらない」(編集部訳)とし、技術パートナーを探している[29]
- 2026年7月時点でCEOは「電池工場への志は諦めていない」「秋のうちに(合意を)できると見込んでいる」(編集部訳)と発言[34]
BNorthvolt(Northvolt AB) スタートアップ・スウェーデン・ストックホルム(本社)、シェレフテオ(工場)、ヴェステロース(研究所) ・ 公式サイト
2016年にストックホルムで設立された電池メーカー。共同創業者のペーテル・カールソン氏がCEOを務めた[1][13]。2021年6月に27億5,000万ドルの私募増資を実施し、累計で65億ドル超の株式・負債を調達、270億ドル超の受注を得ていました[3]。2022年2月時点で従業員2,500人[6]。2024年11月に米国でチャプター11を申請し[13]、2025年3月にスウェーデンで破産(当時従業員5,000人超)[21]。スウェーデン・ドイツの資産は2025年8月に米Lytenが取得することで合意し、2026年2月に完了[27][32]。
- 役割
- 電池セル技術の提供、合弁への出資(のちに不履行)
- ① ニーズ・シーズ
- 2030年までに欧州で150GWh超の生産能力を持つ計画を掲げ、工場を複数建てるための顧客契約と資金が必要でした[3]。ボルボとの合弁ではカールソンCEOが「欧州での独占的な電池セル生産パートナーになることを誇りに思う」(編集部訳)と述べ、大手自動車メーカーの需要を確保することを狙いました[1][2]。
- ② 提供リソース
- リチウムイオン電池セルの技術と、ヴェステロースの研究拠点Northvolt Labsの知見[4][13]。シェレフテオのNorthvolt Ettから2024年以降年15GWhのセルを供給する計画[1]。折半出資者としての資金拠出義務(2024年に不履行)[11]。
- ③ 共同活動での担当
- 折半出資者として研究開発センターと工場の計画・建設に参加し、2024年3月の定礎式にはカールソンCEOが出席した[9]。2024年秋に合弁への追加出資を「現時点では」行わないと決め、持分をボルボに譲渡した[12][17]。
- ⑤ 確認できた成果
- 合弁への追加出資を行わず、2025年1月の株式譲渡契約で持分を手放した。完了時に両社間に未解決の請求はないとされた[17]
- 2024年11月に米国でチャプター11を申請(負債約58億4,000万ドル、手元資金約3,000万ドル・報道)、CEOが辞任[13][14]
- 2025年3月にスウェーデンで破産。管財人のもとで資産を売却し、Lytenが2026年2月に取得を完了[21][27][32]
- ⑤ 今後の目標・期待
- 2025年1月の枠組み合意で、北米での将来の供給協力を探るとした(その後の進展は未確認)[17]
4共同活動③
2021年6月21日、ボルボ・カー・グループとNorthvoltは折半出資の合弁を設ける意向を発表しました。研究開発センターを2022年に開き、欧州に年産最大50GWhの工場を建てて2026年に生産を始め、約3,000人を雇用する計画です[1][2]。同年12月に両社は拘束力のある契約に署名し、約300億クローナの投資のうち研究開発センターをヨーテボリに置くと発表しています[4]。
2022年2月、工場の立地をボルボ最大の車両工場があるトシュランダ(ヨーテボリ)に決め、合弁会社のトップには元テスラのエイドリアン・クラーク氏が就きました[5]。合弁NOVO Energyは2022年に設立され[9][37]、2023年7月に土地環境裁判所の許可を得て、10月に55ヘクタールの用地で造成を始めています[7][8]。2024年3月に定礎し、従業員を年内に250人から500人へ倍増させる計画でした[9]。
一方、Northvoltは2024年9月にシェレフテオ工場の拡張を停止し、約1,600人の削減を発表しました[10]。ボルボは10月30日、Northvoltが株主間契約の出資義務を果たしていないとして償還権を行使し、持分を引き取ると通告しました。電池の生産は「第三者または他のパートナーの関与に依存する」(編集部訳)と説明しています[11]。ボルボはそれまでに約30億クローナを合弁に投じており、Northvoltは「現時点では」合弁へ追加出資しないと決めたと述べました[12]。Northvoltは11月21日に米国で連邦破産法11条を申請しました[13]。
2025年1月、両社は株式譲渡契約と、北米での協力を探る枠組み合意に署名し、完了時に両社間の請求は残らないとしました[17]。ボルボは対価が「四捨五入すると0クローナ」(編集部訳)になると説明し(報道)、取得は7月4日に完了しています[18][28][33]。Northvoltは3月12日にスウェーデンで破産[21]。NOVO Energyは1月に約30%、5月に約50%(約150人)の人員を削減し、7月に研究開発子会社をボルボ・グループへ売却[16][22][23][25]。2026年1月13日、残る75人全員の解雇と操業の休止を発表しています[29][30]。
5成果物と成果④⑤
成果物
- 合弁会社NOVO Energy AB(2022年設立、折半出資)と、ヨーテボリ(エリクスベリ)の電池研究開発センター(2022年稼働、2025年7月にボルボ・グループへ売却)[9][25][37]
- トシュランダの電池工場の建物(55ヘクタール、計画年産50GWh。2023年10月造成開始、2024年3月定礎。建物はほぼ完成、生産設備は未設置)[8][9][18][24]
- 土地環境裁判所の建設・操業許可(2023年7月)[7]
- 株式譲渡契約と、北米での協力を探る枠組み合意(2025年1月)[17]
合弁への投資額は、ボルボ・カーズの年次報告に記載された自社分(2023年8億1,500万、2024年21億3,600万クローナ)のみ確認でき、Northvolt分と合弁全体の支出は未公表です[20]。減損17億200万クローナは2024年10月30日の連結前に合弁株式に対して計上したもので、連結時には取得した有形固定資産の公正価値22億100万クローナなどに対し対価がなく、負ののれん10億5,400万クローナを利益として計上しています[20]。合弁は2024年10月31日〜12月31日に1億7,100万クローナの純損失を連結に加えています[20]。
未確認・留意点- 工場の生産開始時期は、2021年12月の発表では2026年、2022年2月の発表では2025年、合弁設立後のNOVO Energyの発表では2026年と、出典により異なります[4][5][9]
- ボルボがNorthvoltの持分に支払った対価は、2024年年次報告の暫定分析では「なし」、報道ではボルボの説明として「四捨五入すると0クローナ」、2025年年次報告では「4,000万クローナ」と記載が異なります。より大きな和解の一部として交渉されたとされ、内訳は未確認です[18][20][33]
- 株式譲渡契約の署名日は年次報告では2025年1月25日、公表は1月29日です[17][20]。取得の完了は2025年7月4日で、2025年1月は契約締結の時点です[28][33]
- 計画投資額約300億クローナ[4]に対し、実際に投じられた総額は未確認です。ボルボの出資は年次報告で2023年8億1,500万、2024年21億3,600万クローナ、Reutersは「約30億クローナ」と報じています[12][20]。Northvolt側の出資額は未確認です
- 2021年に計画したNorthvolt Ettからの年15GWhのセル供給が実際に行われたかは確認できていません[1]
- 2025年8月のLytenによる取得対象はNorthvolt Ett、Ett拡張、Labs、Drei(ドイツ)と知財で、NOVO Energyは含まれていません(ボルボが取得済みのため)[27]
- 工場の建物は「ほぼ完成」「風雨から保護済み」とボルボが説明していますが、設備投資の規模や建物の現在の簿価は未確認です[18][24]
- サミュエルソンCEOの「工場は他のGeely傘下ブランドとも共有する必要がある」との発言は業界誌の報道(Reutersを引用)で、一次資料では確認できていません[24]
- 2026年10月12日時点で、新しい技術パートナーや工場の用途に関する発表は確認できていません。2026年7月のCEOの発言は「秋のうちに」でした[34]
6組み合わせの意味編集部の考察
考察この共創の要点は、自動車メーカーが「買い手」にとどまらず、電池の開発と生産を折半の合弁で自社の側に引き寄せようとしたことにあると考えられます。ボルボは資金と用地と需要を、Northvoltはセル技術と研究所の知見を出す分担でした[1][4][20]。工場を自社工場に隣接させ、セルが「数メートル」で電池組立に渡る構想は、垂直統合を徹底する設計だったとみられます[9]。
同時に、折半出資の弱点も示しています。株主間契約は双方に出資義務を課し、不履行時の償還権を定めていました[11][20]。Northvoltの資金難が深刻になると、ボルボは追加の資金を出さずにこの条項で合弁を引き取りました[11][12]。合弁株式の減損17億200万クローナを計上する一方、建物などを含む合弁を対価ほぼゼロで取得し、負ののれん10億5,400万クローナを利益に計上しています[18][20]。契約上の出口が、相手の破綻が自社の計画全体を巻き込むことを防いだと推察できます。
ただし、引き取った工場は電池を作る技術を持ちませんでした。ボルボ自身が生産は第三者の関与に依存すると述べ[11]、サミュエルソンCEOは建物はほぼ完成しているが設備は入っておらず、技術パートナーが必要だと説明しています(報道)[24]。1年以上の探索でも相手は見つからず、2026年1月に操業を休止しました[29]。資金と用地は代替できても、相手の技術は代替できなかったとみられます。スタートアップ側から見ると、独占的な合弁は受注の裏付けになった一方、追加出資の義務が資金難のときに重荷となり、持分を無償に近い対価で手放しています[12][17][18]。
7他社への応用編集部の考察
考察この型は、大企業が自社に不可欠な部品や素材を、スタートアップの技術で内製化しようとする共創に応用できると考えられます。鍵は、折半出資の合弁に「相手が出資義務を果たせないときの出口」を契約に入れておくことと、その出口を使った後に事業を続けるための技術が自社にあるかを、あらかじめ見極めておくことだと推察できます。本事例では前者は機能しましたが、後者が欠けていたため、工場は建物だけが残りました[11][29]。
留意点として、第一に、スタートアップの資金調達に依存する計画は、相手の他の事業の失敗に巻き込まれます。Northvoltの資金難はシェレフテオ工場の立ち上げの遅れに端を発しており[10][21]、ボルボとの合弁で生じた問題ではありませんでした。第二に、合弁の工場は用地の譲渡や自治体の投資を伴うため、停止は地域に影響します。ヨーテボリ市は5億クローナ超を先行投資しており[15]、全員解雇に際して労働組合は「この部分の歴史に区切りがつく」(編集部訳)と述べています[31]。第三に、ボルボは調達先を分散し、車両の投入計画に影響はないとしており[11]、合弁が止まっても事業は止まらない備えが前提だったとみられます。合弁を「引き取る」か「畳む」かは、残る資産(建物・用地・人材)を自社で使える見込みで決めることが望ましいでしょう。
成立に必要な条件
- 折半出資の株主間契約に、出資義務の不履行時の償還権など出口を定めておくこと[11][20]
- 相手の技術が失われた場合に事業を続けられるよう、技術パートナーの当てを事前に持っておくこと[24][29]
- スタートアップの資金調達の進み具合を合弁の進捗と連動させ、追加出資の上限を決めておくこと[12][20]
- 合弁が止まっても車両や製品の計画が止まらないよう、調達先を分散しておくこと[11][35]
- 用地の譲渡や自治体の投資を伴う場合、停止時の扱い(使用料、返還)を決めておくこと[15]