← 事例一覧
共創事例
トマトの営農知見とAIを組み合わせ、加工用トマトの営農支援を海外で事業化する
カゴメ株式会社(大手企業) × 日本電気株式会社(NEC)(大手企業)
日本ポルトガル(カゴメ現地子会社の圃場)ほか事業化情報確認日 2026年10月5日
加工用トマトを世界から調達するカゴメと、農業ICTの事業化を目指すNECが、2015年にポルトガルの試験圃場で共同検証を始めた事例です[1][2]。熟練栽培者のノウハウをAIに学習させ、水や肥料の量と時期を助言する「CropScope」を開発し、2020年4月から欧州のトマト一次加工メーカー向けに営農支援事業を開始[3]。2022年には合弁会社DXAS Agricultural Technologyをポルトガルに設立し[5]、2025年時点で6か国に展開しています[15]。
1共創の構造図解:共創プロジェクトの形
Before起点
Aカゴメ
① ニーズ・シーズ勘と経験に頼る加工用トマト栽培を、科学的な根拠に基づく持続可能な営農に変えたい
② 提供リソース現地子会社の実証圃場、トマト営農の知見と熟練者のノウハウ、加工会社・農家とのつながり
BNEC
① ニーズ・シーズ農業ICTを事業化したい。技術だけでは抑えられない栽培現場の要因を補う農業知見が必要
② 提供リソース農業ICTプラットフォームCropScope、AI分析・予測技術、出向人材
During共創
③ 共同活動カゴメの圃場で熟練者のノウハウをAIに学習させ、2020年に営農支援を事業化。2022年に合弁会社を設立
④ 成果物営農支援サービスCropScope、合弁会社DXAS、減肥・節水と収量増の実証結果
After成果
Aカゴメの成果
⑤ 獲得成果確認できた成果営農支援事業の立ち上げと合弁会社化。実証で減肥・節水と収量増を確認今後の目標・期待グローバルトマト市場でのシェアNo.1、日本への展開(自社調達への効果は未公表)
BNECの成果
⑤ 獲得成果確認できた成果熟練者並みの収量を再現するAIを獲得。他作物・他地域へ展開(14か国・14作物)今後の目標・期待CropScopeの事業拡大、農地由来の温室効果ガス排出の低減(売上は未公表)
プロジェクト全体の段階
探索PoC共同開発事業化スケール
①ニーズ・シーズ ②提供リソース ③共同活動 ④成果物 ⑤獲得成果。図の内容は本文と同じ出典に基づきます。
段階:事業化 2020年4月に有償の営農支援サービスを開始し
[3]、2022年9月に合弁会社DXASを設立
[5][6]。2023年にはポルトガルの約21haの商用圃場に導入し
[7]、2025年6月時点で6か国で展開しています
[15]。売上・契約数・導入面積は公表されておらず、公表済みの商用導入面積は約21haのみのため、「スケール」とは判定していません。2026年に入ってからの両社連名の新しい発表は確認できません(2026年10月時点)。
2背景と各組織の狙い
カゴメは加工用トマトを世界から調達しており、2016年にはポルトガルに研究開発拠点を置いて「Low Input-High Output(少ない投入で高い収量)」を掲げていました[8]。しかし現場の栽培は熟練者の勘と経験に頼り、収量を確保するために肥料を大量に使うケースも少なくありませんでした[8]。
NECは農業ICTプラットフォームCropScopeを開発していましたが、技術だけでは、土づくりの不備や病虫害といった現場の要因を抑えきれませんでした[11]。NECの大木氏は、カゴメには「農業のドメインナレッジ」「トライアルに使えるフィールド」「加工会社や農協、農家さんとのつながり」があり、「両社はまさにベストマッチ」だったと述べています[8]。
カゴメの中田氏は、NECを選んだ理由を「お互いが『一目惚れ』だった」と表現し、相手が自社にないものを持ち、目指すゴールとビジョンが一致していたこと、複数社の提案を比較する方法では「とてもこのような形にはならなかった」ことを挙げています[8]。
3提供資源と役割
Aカゴメ株式会社 大手企業・愛知県名古屋市 ・ 公式サイト
トマト加工品を中心とする食品メーカー。売上収益2,942億円(2025年)[24]。ポルトガルやオーストラリアに加工用トマトの現地子会社を持ち、2016年にポルトガルに「カゴメアグリビジネス研究開発センター」を設置した[8]。
- 役割
- 営農知見と実証圃場の提供、合弁会社の主導(出資66.6%)
- ① ニーズ・シーズ
- 加工用トマトをグローバルに調達する立場で、「勘と経験」に頼る栽培、肥料の過剰投入、コストや土壌への悪影響が「長年の課題」でした[8]。加工用トマトは「極めて重要な原材料」であり、持続可能な栽培を重要課題に位置づけています[10]。2015年時点の狙いは、経験頼みの農業に科学的検証に基づく技術を普及させることでした[1]。
- ② 提供リソース
- ポルトガルとオーストラリアの現地子会社の圃場を実証の場として提供[1][2][4]。トマト営農の知見(アグロノミー)と熟練栽培者のノウハウ[5][8]、加工会社・農協・農家とのつながり[8]。2020年に専任組織「スマートアグリ事業部」を新設して販売機能を担い[3]、合弁会社には66.6%を出資してCEOを出しました[5]。
- ③ 共同活動での担当
- 圃場と営農データを提供し、熟練栽培者のノウハウをAIの学習に提供。2020年からは一次加工メーカーへの販売を担い、合弁会社を主導[3][5]。
- ⑤ 確認できた成果
- 営農支援という新規事業を立ち上げ(2020年4月)、合弁会社化(2022年)[3][5]
- 実証で収量増と節水・減肥の効果を確認(ポルトガル:窒素肥料約20%減で127t/ha、灌漑量約15%減で収量約20%増)[3][6]
- ⑤ 今後の目標・期待
B日本電気株式会社(NEC) 大手企業・東京都港区 ・ 公式サイト
ICT企業。連結従業員101,800名、連結売上収益3兆5,827億円(2025年度)[23]。農業ICTプラットフォーム「CropScope」を開発・提供する[2][11]。
- 役割
- AI・センサー・衛星データのプラットフォーム提供(出資33.4%)
- ① ニーズ・シーズ
- 農業ICTソリューションのグローバル展開と事業化が狙いでした[2]。CropScopeを改善・進化させるには「その分野の方々と力を合わせることが必要」であり[8]、植え付け前の土づくりの不備や病虫害など、技術だけでは排除できない要因に対応するために、農業知見の豊富な相手が必要でした[11]。
- ② 提供リソース
- 農業ICTプラットフォーム「CropScope」(センサーと衛星写真による可視化、AI営農アドバイス、仮想圃場での生育シミュレーション)[2][3]。AI分析・予測技術の開発[5]。カゴメへの出向者と、合弁会社の社外取締役[8][9]。合弁会社への出資33.4%[5]。
- ③ 共同活動での担当
- センサー・衛星・ドローンのデータと営農データを統合して分析し、熟練者のノウハウを学習したAI営農アドバイスを開発[1][3][4]。
- ⑤ 確認できた成果
- 熟練栽培者と同等の収量を再現するAIの強化[3][4]
- 加工用トマト以外の作物・地域への展開。CropScope全体で世界14か国・14種類の露地栽培作物に提供(2025年3月)[11]。住友商事とグローバル拡販で提携(2024年)[12]
- ⑤ 今後の目標・期待
- CropScopeの事業拡大と、農地由来の温室効果ガス排出の低減[11]
4共同活動③
発端はNEC側からの提案です。2015年、NECの欧州拠点の担当者が、ポルトガルに農業研究機関を持つカゴメを訪問して技術を紹介しました[9][18]。同年3月から、カゴメ現地子会社の試験圃場で共同検証が始まります。気象・土壌などのセンサー、人工衛星やドローンのデータ、灌漑・施肥のデータを組み合わせ、NECの分析技術で水・肥料・農薬の最適化と収量の最大化を検証しました[1][2]。2015年夏の単収は146t/haで、ポルトガル平均の約1.5倍でした[1]。
2015年から2019年にかけて、ポルトガル、オーストラリア、アメリカ、スペインで実証を重ねました[3][5]。熟練栽培者のデータをAIに学習させ、水・肥料の量と時期を指示する仕組みを開発[3][4]。ベテラン農家が分析結果を容易に信じないという現場の壁に対しては、現地のアグロノミスト(営農指導者)に仲介を依頼しました[8]。2019年のポルトガルでの実証では、窒素肥料を一般平均より約20%減らして127t/haの収量を得ています[3]。
2020年3月、両社は戦略的パートナーシップ契約を結び、4月から欧州のトマト一次加工メーカー向けに営農支援事業を開始しました。カゴメが「スマートアグリ事業部」を新設し、加工メーカーがサービスを使って契約生産者を支援する形です[3][20]。2022年6月に合弁会社DXAS Agricultural Technology(ポルトガル・リスボン、資本金3億円相当、カゴメ66.6%・NEC33.4%)の設立を発表し、同年9月に設立[5][6]。DXASが販売、マーケティング、顧客開拓、サービス企画を担います[5]。
2023年には北イタリアで初めての実証を行い、灌漑量約19%減で収量約23%増(148.8t/ha対120.5t/ha)を確認。ポルトガルでは約21haの商用圃場に導入し、平均148t/haの収量を得ました[7]。2025年には自動施肥灌漑の新製品「AI Smart Pulse」を訴求し、ポルトガルで圃場実演会を開いています[15][16]。
5成果物と成果④⑤
成果物
- 営農支援サービス「CropScope」の圃場可視化サービスとAI営農アドバイスサービス(2020年4月提供開始)[3]
- 少量多頻度灌漑に対応したAIアドバイスと自動灌漑制御サービス(2022年11月提案開始)[6]
- 合弁会社DXAS Agricultural Technology LDA(ポルトガル・リスボン、2022年設立)[5][6]
- 実証結果:ポルトガル2019年は窒素肥料約20%減で127t/ha[3]。北イタリア2023年は灌漑量約19%減・収量約23%増[7]。ポルトガル商用圃場約21haで平均148t/ha[7]
- 自動施肥灌漑の新製品「AI Smart Pulse」(2025年)[15][16]
売上、契約数、導入面積、料金はいずれも公開されていません。段階の判定に使える商用導入の数値は、2023年のポルトガル約21haのみです[7]。展開国数は2022年6月に「7か国」[5]、2025年6月に6か国[15]と、時点によって異なります。
未確認・留意点- カゴメ自身の調達先農家にどの程度導入したか、原料調達の安定化やコストへの効果は公開されていません
- 日本国内での展開は「国内産地で検証予定」[3]「検証を続けていきます」[5]という記述のみで、国内提供開始の発表は確認できません
- 合弁会社の設立時期は、2022年6月の発表では「7月予定」[5]、同年10月以降は「9月に設立」[6]と記載されています
- NECは2024年以降、住友商事との提携や北海道の畑作など、カゴメ・DXASを経由しないCropScopeの展開も進めています[12][22]
- 2023年11月[7]より後の両社連名のリリースは確認できていません
6組み合わせの意味編集部の考察
考察この組み合わせの要点は、技術の側(NEC)が「現場で効く条件」を自力で作れず、現場の側(カゴメ)が「勘と経験を再現可能にする手段」を持っていなかったことにあると考えられます。AIが熟練者と同等の収量を再現するには、熟練者の営農データと、試せる圃場、そして結果を農家に受け入れてもらう仲介者が必要でした[3][8]。これらはすべてカゴメ側の資源です。一方、カゴメが長年の課題としていた肥料の過剰投入や勘頼みの栽培[8]は、センサーと衛星のデータを統合して助言するNECの技術がなければ、知見のまま現場に広がらなかった可能性があります。
もう一つの要点として、時間軸の違いを乗り越えたことが挙げられます。農業は年に1回の収穫で結果が出るのに対し、ICTは更新サイクルが早いという違いがあります。両社は議論を重ねて「互いの時間軸が合うようになり」チームになったと語っています[9]。2015年から2020年の事業化まで5年、合弁まで7年をかけた共創であり、短期の成果を求める共創とは性質が異なると考えられます。
器の選び方にも特徴があります。事業化はまずカゴメの事業部として始まり[3]、技術開発の加速と営業強化を目的に合弁会社へ移行しました[5]。食品メーカーが主導する出資比率(66.6%)で、技術企業が少数出資する形です[5]。顧客である加工メーカーや農家との関係を持つ側が事業の主体になり、技術の側はプラットフォームを提供して他作物・他地域に展開する[11][12]という、役割の分け方がうかがえます。
7他社への応用編集部の考察
考察この型は、原材料や現場の知見を持つメーカーが、データ分析やAIを持つ企業と組んで、自社の調達先や取引先に向けたサービスを作る場合に応用できると考えられます。食品に限らず、原料を契約生産者から調達する業種(繊維、木材、水産加工など)でも、同じ構造が成り立つ可能性があります。
成立の条件としては、第一に、熟練者のノウハウを学習させられる現場と、そこで試行できる期間があることが挙げられます。本事例では自社子会社の圃場で複数年の実証ができました[1][4]。第二に、結果を使う側(農家や加工メーカー)に受け入れてもらう仲介者です。本事例では現地のアグロノミストがその役を担いました[8]。第三に、事業の主体をどちらが持つかを決めることです。顧客との関係を持つ側が主導し、技術の側が他分野に展開する自由を持つ形は、両社の利害を両立させやすいと推察できます[5][11]。
ただし、本事例は売上や導入面積が公開されておらず、事業規模を外から確かめることはできません[7]。実証での収量増が、有償サービスとしての採算に結び付いているかは、公開情報からは分かりません。応用する際は、実証の指標(収量・節水)と事業の指標(契約数・売上)を分けて追うことが望ましいと考えられます。
成立に必要な条件
- 熟練者のノウハウを学習させられる現場(自社圃場や協力先)と、複数年の試行期間があること[1][4]
- 分析結果を現場に受け入れてもらう仲介者(営農指導者など)がいること[8]
- 農業(年単位)とICT(短周期)のような時間軸の違いを、両社が合わせる意思があること[9]
- 事業の主体(顧客との関係を持つ側)と、技術側の他分野展開の自由を、出資比率や契約で取り決めること[5][11]
- 実証の指標(収量・節水)と事業の指標(契約数・売上)を分けて追うこと